ビジュアル・サイエンス・フェスタ
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2003年
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2001年
日経サイエンス
CVC
 
古石貴裕 こいし・たかひろ
理化学研究所
戎崎俊一 えびすざき・としかず
理化学研究所
 
三浦 均 みうら・ひとし
武蔵野美術大学
 
 
図1 固体状態でのNaCl
図2 小さな結晶核を高速で衝突させたときの様子
図3 衝突後ナトリウム原子や塩素原子が飛び散って気体になった様子
 Claretは原子の動きを表示するプログラムである。このClaretを作った動機は「原子の動きを見てみたい」というものであった。私(古石)は分子動力学(Molecular Dynamics ; MD)シミュレーションを使った研究を行っており、原子の動きを計算するということは以前から行っていた。ClaretはNaClのMDシミュレーションプログラムに表示機能と操作機能を付けたものである。ソフトウェアの開発には現在広く使われているグラフィックライブラリのOpenGLを用いた。

 Claretでは原子一つ一つの動きを運動方程式に従って計算しながら表示も行っている。それぞれの原子はその原子以外の全ての原子から力を受ける。力の計算には原子間距離によって決まるポテンシャル関数を用いている。シミュレーションで扱っている原子がナトリウム原子と塩素原子であるということは、このポテンシャル関数が決めている。力を求めるための計算の量は粒子数の2乗に比例する。このため、64程度の少ない粒子数では、普通のPC単独でも動作するが、粒子数が100以上となると実行速度は極端に低下する。Claretは、我々の研究室(理化学研究所計算科学)で開発した分子動力学専用計算機MDGRAPE-2に対応させてあり、1000個程度の原子をリアルタイムで動かすことができる。MDGRAPE-2 はもともとタンパク質などのシミュレーションを行うために開発された分子動力学のアクセラレータボードである。このMDGRAPE-2を使うことによりMDの計算は10〜100倍に加速される。

 Claretでは速度に応じて原子の色を変化させている。これは原子の動きを分かりやすくするためである。また、結晶格子を作っている原子同士には線を引いている。温度を上下させながら原子の色や線を観察するとNaClの固体、液体、気体の三態の違いによる原子配置の変化の様子が直感的によく分かる。この他にも結晶に小さな結晶を高速で衝突させる仮想的なイオンビーム実験を行うことができる。これにより、衝突核の運動エネルギーが結晶に熱として伝って、結晶構造が破壊され固体のNaClが一瞬にして気体状態になり蒸発する様子が再現される。これらの原子の動きを精度良く再現するためシミュレーションの計算時間の最小単位は2.0フェムト秒と原子振動の1000分の1程度にとっている。
講評
Claretは、PCIカード型の専用計算機を使った分子動力学シミュレーションをインタラクティブに実行するシステムである。分子の運動状態が即時に表示され、例えば、温度を制御することによる相変化や結晶の衝突などの複雑な現象のシミュレーションが、PC上で手軽に可視化・観察できることが高く評価された。