ビジュアル・サイエンス・フェスタ
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日経サイエンス
CVC
 
 
スペシャルエフエックス スタジオ 取締役
ビジュアルエフェクトスーパーバイザー
 
古賀 信明
 
 
 私は、劇場用映画・コマーシャル等で視覚効果を中心に仕事をしていますが、道具として一番フレキシビリティがあるのがデジタルだと思っています。一昔前までは、マシンスペックやソフトへの依存度が高かったのですが、現在では、それらを使いこなす人間のアイディア、センスが非常に大事になってきています。

 今回の「アバロン」という映画は、全編ポーランドロケだったのですが、そこで問題が起こりました。壁の中をゴーストが走り抜けるシーンで、ゴーストは壁の中では2次元で、壁を抜けたところでは3次元に表現しなければなりませんでした。カメラは壁に沿って移動した後、角を曲がり、壁を抜け出てきたゴーストを回り込んで撮影します。さらに、ゴーストの髪がゆっくりなびく感じを強調したいので、3倍速のハイスピードでの撮影が要求されましたが、安全上の理由でハイスピード撮影が不可能であることが、当日現場で判明したのです。モーションコントロールカメラを使えば、タイムスケールの違う動きを同じカメラの動きで撮るのは簡単なのですが、突然のことでモーションコントロールカメラの用意もありません。結局、ゴースト役の少女の動きは、後日ブルーバックで撮影することになりましたが、現場で背景を撮ったカメラワークを全く別の日に正確に再現しなければいけないという難しい問題に突き当たったのです。

図1 ブルーバック撮影時、キャメラを固定した事で被写体のコントロールが楽になり、条件の違う二者の映像を組み合わせることができた。(最終合成画面とブルーバック)
図2 合成時のAfterEffectsの画面
 そこで、カメラを動かすことを止めて、カメラは固定したまま、相対的な少女の体の向きだけを考えることにしました。映画では、ゴーストは直線上を走っていることになっているのですが、ブルーバックで撮影するときには、少女には回り込むようにカーブを描いて走ってもらいました。これを合成すると、実際にはカーブを描いて走っているにもかかわらず、映画では壁の中をまっすぐに走るゴーストをカメラが回り込んで撮っているように表現することができたのです。

図3 ターゲットを消したり、壁の目地に光のエフェクトを入れるためにモーショントラッキングを行ったキャメラパスをMAXに読み込んだところ
 映画やコマーシャルでは、CGと普通のカットを混在させますから、当然リアルなものが求められます。リアルなものを作るには、普段から物事を注意深く観察するという行為の積み重ねが大切になります。今回の撮影で、一番感じたのは、コミュニケーションの重要さです。私達日本人は普段、あうんの呼吸で、相手がわかってくれるものという前提で言葉を使ってしまっています。CGというのは、普通の撮影と違ってかなり作業が進んだ後でないと、最終形態が見えません。作業が進んだ後で、これはイメージと違うとクライアントから言われては、タイトなスケジュールの中で仕事を完了することができなくなります。例えば、一口に白と言っても、現実には様々な質感の白があります。ですから要求された事柄を“言葉を変えて”「それは紙のような白ですね?」等と別の言い方、表現を使って打ち合わせを進めるようにします。このようにして表現のとり違いを防いでいます。さらに現実の世界に存在する様々な事柄を日頃から意識的に観察し、なおかつ十分なコミュニケーションをとることが、クライアントが求めるものを速やかに実現するためには重要なのではないかと思います。