NEWS
SCAN
天文学
つぶれた形の太陽系
太陽系の南側はつぶれて狭くなっている
ボイジャー2号は昨年,30年間宇宙を旅した後,太陽系の内と外を隔てる最初の境界面であるターミネーションショック(末端衝撃波面)を越え,荷電粒子の波に突っ込んだ。姉妹機のボイジャー1号はこれより先にターミネーションショックを越えて北に進んでいるが,これら2機が送ってきた信号からすると,太陽系は片側が“つぶれた”形をしているようだ。太陽風が真っ直ぐ届く距離が,北側に比べ南側は短くなっている。
15億キロの違い
ターミネーションショックとは,太陽風が外宇宙の星間粒子の広大な海にぶつかって屈する地点のこと。太陽風は太陽から秒速400kmの超音速で放射状に吹き出している荷電粒子の流れで,太陽磁場に沿って進む波のなかでは最も速い(ちなみに宇宙でも音波が伝わる場合はあり,太陽系内では秒速50〜70kmで進む。だが,音の媒体が非常に希薄で音波の振幅が極端に小さいので,叫び声が聞こえるわけではない)。太陽風はターミネーションショックに近づくと秒速300kmまで減速する。外側の「ヘリオシース」という領域から,宇宙線粒子が太陽風に逆らって流れてくるからだ。
ターミネーションショックでの太陽風の速度はほぼ半減して秒速150kmに落ち,他の恒星からやってくるプラズマの風と混じり合う。その結果として高エネルギーイオンの波が生じていることを,ボイジャー2号が発見した。この不屈の探査機はターミネーションショックを越えてヘリオシースに入った8月30日から9月1日にかけて,高速荷電粒子の波を5回乗り越えた。速度と密度が落ちた太陽風はそこで渦巻き,太陽が銀河系内を進むのとは逆の向きに尾を引いている。
以前は,ターミネーションショック外側の太陽風の速度は亜音速だと考えられていたが,「太陽風は予想よりも減速しておらず,これは驚きだった」とカリフォルニア工科大学のストーン(Ed Stone)はいう。
船首の両側に寄り添って泳ぐイルカのように,2機のボイジャーは黄道を挟んで位置しながら太陽系の進行方向側を進んでいる(左の図)。ボイジャー2号は太陽から84天文単位(AU;1AUは地球と太陽の平均距離)のところでターミネーションショックに当たった。ボイジャー1号がぶつかった94AUに比べると15億kmも近い。この非対称性から,太陽系がなぜか傾いて北側に膨らんでおり,南側のほうが恒星間風に強くさらされていることがわかる。「その理由を知る必要がある」とストーンはいう。
予想外に冷たいヘリオシース
優れた船乗りなら知っているように,風向きは海での船の舵取りに非常に重要だ。米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターにいる磁力計の専門家バーラガ(Leonard Burlaga)は,南側が短いのは恒星間磁場が及ぼす圧力が南側のほうが強いからだと解釈する。同時に,太陽の周期変動によって“帆の張り具合”が微調整されているとみる。
ボイジャー2号は1号とは違ってプラズマ検出器がまだ作動しており,驚くべき報告がもう1つもたらされた。太陽風粒子がターミネーションショックで減速すると運動エネルギーが熱に変わるはずだと考えられ,「ヘリオシースのイオン温度は100万度以上になると予想していた」のに,「実際は10万〜20万度ほどで,予想の1/5〜1/10だった」とストーンはいう。宇宙線粒子が太陽風のエネルギーを奪って自分自身の加速に使った可能性が考えられている。バーラガは「イオンが太陽風による磁場変動で跳ね返り,太陽風のエネルギーがイオンに移行する」と説明する。そうした加速がターミネーションショックからヘリオシースにどれだけ入ったところで起こっているのかは,まだわからない。
その答えは,2機のボイジャーがヘリオシースの旅を続けるうちに明らかになるかもしれない。また,ターミネーションショックを通過してきた粒子を収集する地球周回衛星がこの夏に打ち上げられる予定で,解明が進みそうだ。その一方で,天文学者たちは太陽系のモデルを組み立て直している。「現在の磁気流体力学的モデルでは実態を完全には説明できない」とストーンはいう。
インデックスへ戻る
Q&A
本当のテレポーテーション
SF映画もよいけれど,量子情報はもっと刺激的
ある場所から別の場所へ瞬間移動するというSFの夢(完全な空想)は,スティーブン・グールドの小説に基づくダグ・リーマン監督の映画『ジャンパー』(日本では3月7日から公開中)の冒頭に引き継がれている。そこで,カリフォルニア工科大学の量子物理学者キンブル(H. Jeff Kimble)に,物理学者が量子テレポーテーションをどう理解しているのか聞いた。量子テレポーテーションは通勤・通学(commuting)よりも計算(computing)に向いているという。
量子テレポーテーションに関する最も大きな誤解は何ですか?
物体そのものが送られると勘違いされている点だ。物質をあちこちに送るのではない。ジェット旅客機を送ろうとするなら,すべての部品を送るか,全部品を示した設計図を送るかのどちらかだが,設計図1枚のほうがはるかに簡単だ。テレポーテーションは量子状態,つまり波動関数を,ある場所から別の場所へ送る方法だ。
それは難しいことなのですか?
最も単純明快な例として,電子の場合を考えよう。A地点からB地点へ向けて単に電子を発射すると,電子は量子状態を伴いながらB地点へ向かっていく。しかし,たいていはこの過程で量子状態がめちゃめちゃに乱れ,うまくいかない。
量子テレポーテーションはその問題をどのようにして回避する?
テレポーテーションを可能にするカギは「量子もつれ」という特殊な資源だ。あなたはA地点にいるアリスで,私はあなたに量子状態の不明な電子を1つ渡すとしよう。あなたの仕事は,その量子状態(電子ではなく)をB地点のボブに送ること。ただ,あなたが電子の量子状態を直接測定すると,量子状態は必然的に乱れてしまう。
しかし,あなたとボブは別に1対の電子を共有している。あなたが1個,ボブはもう1個を持ち,それらは量子もつれ状態にある。例えば,あなたの電子のスピンが上向きならボブの電子はスピン下向きで,逆も同様だ。そこであなたは,私が渡した電子とボブと共有している電子の2つをまとめて測定する。この結果,あなたは2ビットの情報を得る。あなたがボブに電話をかけてその2ビットを伝えると,ボブはそれをもとに自分の電子を操作する。するとあら不思議,理想的には,ボブは私があなたに渡した電子の状態を完全に再現できるというわけだ。
量子状態を伝送する目的は? 何かに応用できるのですか?
量子コンピューターを作るとしよう。量子メモリーと量子プロセッサーの間でデータをやり取りする必要がある。テレポーテーションは両者を結ぶ理想的なワイヤになる。
近年の進展は?
1998年,私のチームは1本の光ビームのテレポーテーションを実証した。最初の真の実証実験だったといえる。数年前(2004年),米国立標準技術研究所に所属するワインランド(David J. Wineland)のグループ,またそれと同時にオーストリアにあるインスブルック大学のブラット(Rainer Blatt)のグループが,磁気トラップに捕捉されたイオンの内部スピンをテレポートした。これは質量を持つ粒子の状態をテレポートした初の例だった。さらに最近では(2006年),コペンハーゲン大学のポルジック(Eugene S. Polzik)のグループが光の量子状態を物質系に直接テレポートしてみせた。
それらに実用的な価値がある?
実用上の意味はある。量子コンピューターは光と物質の混成システムになるからだ。光はある場所から別の場所へ非常に低損失で伝わるが,光を保存するのは実に難しい。
話は変わりますが,新作映画『ジャンパー』では何人かが瞬間移動します。
そいつは知らなかった。
『X-Men 2』ではナイトクローラーが……
X-Menも見てない。
NBCテレビの『ヒーローズ』は?
いや。フットボールのプレーオフは見るが。
でも,ご存じカーク船長は……
助言させてほしい。それらに出てくるテレポーテーションの話はしないことだ。
15年か20年前には存在もしなかった本当に刺激的な科学のフロンティア,それがこの量子情報科学だ。従来のコンピューター科学と量子力学が結びつく。まさにワクワクドキドキの出来事が進行中なのだよ。
インデックスへ戻る
生物学
刮目すべき効果
100万年前に目を失った洞窟魚が1代で視力を回復
長い進化の末にできた解剖学的特徴が,たった1世代で覆る場合がある。目の見えない洞窟魚をうまくかけ合わせると,目の見える子どもができる。
メキシカンテトラ(Astyanax mexicanus)という魚には,洞窟にすむ目の見えない仲間がいる。もともと水面近くに生息していたものが完全な暗闇のなかにすみつき,100万年ほど前に視力を失った。メキシコ北東部の淡水洞窟に生息し,体長は最大で約12cm,用のなくなった目の上には皮膚が成長している。
この洞窟魚の失明は進化の過程で少なくとも3回,独立に起こり,各回とも数カ所の遺伝子部位の変異が原因だったことがわかっている。そして,失明をもたらした変異のうち一部は,存在が知られる29の洞窟魚集団の間で異なっていた。変異がこのように多様なので,洞窟魚の異なる系統をかけ合わせれば目の見える個体ができるかもしれないと考えられた。片方で欠損している遺伝子が他方の遺伝子で補われる可能性があるからだ。
ニューヨーク大学の進化生物学者ボロウスキー(Richard Borowsky)らは,異なる洞窟魚集団をかけ合わせた子孫のなかに,通常よりもサイズは小さいがちゃんとした目を持つものが生まれることを発見し,Current Biology誌1月8日号に報告した。動く縞模様を目で追うので,実際に見えている。ボロウスキーはさらに,距離的に離れた洞窟にすんでいた魚をかけ合わせたときほど,視力を持つ子孫の生まれる確率が高くなったという。
生息場所が離れている系統ほど関係が薄く,失明の原因となっている遺伝子の重複も少ないという考え方を裏づける。洞窟魚の失明原因となった変異を特定すれば,ヒトの目の発達や失明にも光を当てられそうだ。
インデックスへ戻る