日経サイエンス

日経サイエンスは米国の科学雑誌「SCIENTIFIC AMERICAN」の日本版です。

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SCIENTIFIC AMERICAN
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    NEWS SCAN
    食物学
    ちょっぴり栄養
    鉄とビタミンを添加した食塩で欠乏症に対抗


     ヨウ素を添加した食塩が世界の人々にもたらした恩恵は大きい。現在,途上国の3世帯に2世帯がヨウ素添加塩を使い,毎年推定8200万人の子どもが甲状腺疾患とその後の学習障害から守られている。ただし,他の微量栄養素がまだ欠乏している。
     鉄欠乏性貧血にかかっている人は世界で約20億人。貧困国の1億人以上の子どもはビタミンAが欠乏し,これが失明の主因となっている。ヨウ素添加塩にさらにこうした欠乏栄養素を添加する方法がかねて模索されてきたが,最近,カナダの研究グループが二重・三重に栄養を強化した食塩を作る実用的な方法を開発した。栄養障害を解消するうえでは,遺伝子組み換え食品よりも人々に受け入れられやすいかもしれない。

    変質防止と見た目の改善

     ヨウ素添加塩に鉄を加えるのは単純なアイデアだが,実行には困難が伴う。ヨウ素と鉄は相性が悪く,混合するとヨウ素は気化し,鉄は劣化する。トロント大学の化学工学者ディオサディ(Levente Diosady)は10年以上かけて,ついにこの問題を解決した。食品業界で「マイクロカプセル化」と呼ばれている技術を借用する。植物脂肪のステアリンを鉄粒子にスプレーして保護膜を作り,鉄とヨウ素の化学反応を防いだ。
     しかし,これは問題解決のごく一部。鉄粒子の外観も変えなければならなかった。鉄粒子はこげ茶色で,塩の粒よりずっと小さいが,「塩のなかの鉄がネズミの糞みたいに見えてはいけない」とディオサディはいう。「食物への異物混入が問題になっている途上国では,これは大切なポイントだ」。
     鉄を塩らしく見せるため,鉄粒子にまずマルトデキストリンをスプレーする。マルトデキストリンは食用デンプンに手を加えて作った糖質分子で,これが糊のように鉄粒子どうしをくっつけて,塩粒大の球体にする。それから,この鉄粒に食用級の二酸化チタンを含む高温の植物油をスプレーして,皮膜を作る。二酸化チタンは白色顔料だ。こうしてできた鉄粒をヨウ素添加塩と混ぜても,ほとんど見分けはつかない。ビタミンAも同様の方法で添加でき,3重に栄養強化された食塩ができあがる。

    有望な結果

     ナイジェリアとケニアで試した結果,二重・三重強化塩は高温多湿の環境下でも安定していたほか,地元民に受け入れられた。また,オタワに本部を置く非政府組織「微量栄養素イニシアチブ」が鉄強化食塩をガーナで試験したところ,他の鉄補給食品なしに,8カ月で貧血の児童数が23%減った。現在,インドの大規模工場2カ所で量産されており,同イニシアチブは360万人の学童を対象にした調査を続けている。
     食塩はほぼ全員が摂取するし,栄養強化も比較的安くできる(二重強化塩でも1kgあたり2円ほど)ので,微量栄養素の補給にはうってつけだ。「極貧であっても塩は何とかして手に入れざるをえないし,貧乏だからといって自分で塩を作る人もいない」とディオサディはいう。さらに,食塩の摂取量は人口集団によってほぼ一定なので,強化栄養素の摂取量もコントロールしやすい。
     また,βカロチン(ビタミンA前駆体)を含む「ゴールデンライス」のような遺伝子組み換え食品もあるが,栄養強化塩のほうが普及しやすいかもしれない。ゴールデンライスは安全性に対する不安や,微量栄養素の含有量が不十分ではないかという心配もあって,途上国にはまだ導入されていない。

    栄養強化作物も

     だが,強化塩ですべての必須栄養素を供給することはできない。例えばビタミンCは大量に必要なので,ビタミンC強化塩ではなく食塩強化ビタミンCというべき奇妙なものでも作らない限り意味をなさない。また,1日の食塩摂取量は平均10gなので,強化塩で補えるのは数ある栄養素の必要所要量の一部にすぎないだろう。
     主要食品の栄養を強化することで微量栄養素欠乏症を減らそうとしている国際研究プログラム「ハーベストプラス(HarvestPlus)」の責任者ブイズ(Howarth Bouis)は,食塩など市販食品への栄養添加は都市部では有効だが,遠く離れた農村地域に住む貧しい人たちには届かないかもしれないとみる。ハーベストプラスはむしろ,「バイオ栄養強化作物」の利用を促進している。在来の交配技術か遺伝子操作のいずれかによって,含有栄養素を強化した作物だ。
     これなら栄養豊富な食物を必要とする人たちが自ら栽培できるとブイズはいう。「工場は不要。作物が育ってくれる」。ただ,バイオ栄養強化した作物は可食部の色が変化する場合があるので,消費者がすんなり受け入れるとは限らない。
     微量栄養素欠乏症を防ぐにはバランスの取れた食事が最良に違いない。だが,そうした食事に手が届かない途上国の人々には,数粒の栄養強化食塩も大きな意味がある。


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    物理学
    永遠に続く流れ


     絶対零度に近くなると,物質は摩擦ゼロで流れる不思議な状態になる。「超流動」という現象だ。ボース・アインシュタイン凝縮体(極低温の粒子が集まって1つの超粒子として振る舞うもの)のなかでは,こうした流れが永遠に続きうることが原理的には知られていたが,実際に観測された例はなかった。だが最近,米標準技術研究所(NIST)のグループがドーナツ状の凝縮体を作り,円形の超流動を10秒間持続させた。
     過去の実験で使われた球形や葉巻状の凝縮体とは違って,ドーナツ状の場合は安定した流れを持続できる。中央の穴が動いて周囲の凝縮体の流れを妨げるにはエネルギーが必要になるからだ。この発見はPhysical Review Letters誌に掲載予定。超流動に関する詳しい知見を与えてくれるとともに,非常に正確なナビゲーション用ジャイロスコープにつながるだろう。
     極低温の固体中の粒子も摩擦ゼロで流れる可能性があるが,こうした「超固体性」を観察したとする過去の研究を疑問視する物理学者もいる。Nature誌2007年12月6日号には,固体ヘリウム(ヘリウムは標準圧力では絶対零度になっても液体だが,高圧を加えた場合には固体になる)は温度が絶対零度に近づくにつれて硬度が増すという報告が掲載された。この現象は,過去の実験で見られた超固体性に似た作用かもしれない。あるいは,超固体性のまったく新しい性質を示している可能性もある。この謎を解くには,さらなる実験と極めて“冷”静な論理が必要だろう。

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