日経サイエンス

日経サイエンスは米国の科学雑誌「SCIENTIFIC AMERICAN」の日本版です。

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    NEWS SCAN
    エネルギー効率
    リバウンド効果に注意
    安くなったら余計にエネルギーを消費,というのでは元も子もない


    価格が下がれば消費が増える──というのは経済学のイロハだ。この需要の法則を,エネルギー効率向上と温暖化ガス排出削減を図る対策に当てはめるとどうなるか。経済学者の試算によると,「リバウンド効果」が生じる。ある技術によってエネルギーを節約しても,消費が増えるために,節約の効果が目減りしてしまう結果になる。
    例えば自宅に高性能の断熱材を導入してエネルギーと冷暖房費を節約できるようになった人は,冬場にサーモスタットの温度設定を上げる余裕ができたと考えるかもしれない。「コストを下げる策を講じると,同様の行動が広がる」というのは,デューク大学のエネルギー・環境経済学者ニューウェル(Richard Newell)だ。
    リバウンド効果の存在そのものは多くの専門家が認めるものの,その程度については議論が続いている。最近の2つの研究結果は効果の大きさについては異なる結果を示したが,安くなると消費が増えるという人間の性向を調整するには何が最善かという点ではほぼ一致している。地球温暖化抑止という意味では,二酸化炭素放出に税を課すのが優れた手段となるようだ。

    効率向上が丸ごと寄与するわけではない

    カリフォルニア大学アーバイン校の経済学者たちは今年1月のEnergy Journal誌に,自動車に関するリバウンド効果を考察した結果を発表した。燃費改善に伴って,人々がどれだけ運転距離を伸ばすようになるかということだ。1966〜2001年の米国における燃費データをもとに,自動車のリバウンド効果を10%と推算した。つまり,運転にかかる費用が低下した場合,その低下率の10%だけ運転距離は増える。
    所得向上につれてリバウンド効果は小さくなってきたものの,ガソリン価格の上昇がその低下を部分的に相殺している。研究にあたったヴァンデンダー(Kurt Van Dender)は2006年のガソリン価格に基づいてモデルを再調整し,ガソリン価格が58%上がると燃費のよい車に乗り換えた場合のリバウンド効果が10%から15%に高まることを見いだした。ただし,総じて「リバウンド効果はかなり小さいことがわかった」という。「燃費基準をさらに強めれば,燃料消費を実際にかなり抑えられるだろう」。
    Energy Economics誌1月号に発表されたもう1つの研究は違った角度からこの問題を分析した。スウェーデンにあるウメオ大学の経済学者たちは同国内の輸送,食品,暖房,その他商品に関する消費データに基づいて,エネルギー効率の向上(価格低下としてモデル化)がそれぞれの分野の消費にどう影響するかを評価した。例えば暖房効率が20%よくなると,自動車による移動の需要を4.2%押し上げる。全体的に見た場合,マクロ経済レベルでエネルギー効率が20%高まると国全体の炭素排出が実際には5%増える。
    研究にあたったブレンランド(Runnar Bra¨nnlund)は「私たちのモデルでは燃費改善によって燃料消費は減るのだが,重要な点は,浮いたお金を炭素排出の激しい別のものに使う可能性があるということだ」という。「効率を20%上げたら炭素排出が20%減ると思ったら大間違い」。
    リバウンド効果を抑えるにはエネルギー効率向上を他の排出削減策と抱き合わせる必要があり,「炭素の価格を引き上げなければならない」という。重税を課すのが1つの方法だろう。スウェーデンの場合,炭素排出を元の水準に下げるには炭素税(同国では1991年から導入されている)を130%引き上げなくてはならない計算になるという。

    人間の行動性向を考えると…

    欧州連合(EU)は新しい燃費基準を検討中だ。米国の一部の議員も同様に燃費基準を引き上げようとしているが,自動車メーカーの反対にあっている。ヴァンデンダーは「政治的強制力が働く状況では燃費規制は悪い手ではない」という。
    しかし,経済学の基本によると需要は価格に応答する。「ガソリン消費に伴う社会的コストが存在し,消費者がガソリンを燃やすときにそれを考慮していないのなら,ガソリン税か炭素税のほかに手があるとは考えにくい」とブレンランドはみる。さらにヴァンデンダーは,小さなリバウンド効果であっても,大気汚染や交通渋滞を悪化させ,「実に大きな社会的コストをもたらす」という。


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    リモートセンシング
    「だいち」がキャッチしたペルー地震の地殻変動


    日本時間8月16日に起きたペルー大地震。この前後で,震源地付近が隆起した様子を宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち」がとらえた。搭載レーダーで観測した画像を解析した結果,衛星と地面との距離が最大で約1.3m近づいた。
    震源地はリマの南南東145kmの沖合,震源の深さは39km。マグニチュード8.0の大地震で,翌日には日本の太平洋沿岸でも最大で20cmの津波が観測された。
    「だいち」は震源地付近を合成開口レーダーで観測し,7月12日と8月27日の画像データを取得した。このレーダーは衛星から発射した電波の反射をとらえ,衛星と地面との距離を割り出す。2回の観測で得られた距離の差をとれば,地震の前後に地面がどれだけ隆起または沈下したかがわかる。
    上の図は「差分干渉処理」という手法で描かれた地殻変動図で,青から緑,黄,赤,青までが1周期(=11.8cm)として表されている。図で「+5.9cm」と表示した地点から「+135.7cm」の地点までに11周期の色の変化があり,最大で約1.3mの隆起が見られることがわかる。同じく「だいち」による観測で,新潟県中越沖地震では30cm,能登半島地震では45cmの隆起が見られたが,ペルー地震の隆起は非常に大きく,激しい地殻変動があったことを物語っている。
    「だいち」は地表の基準点に頼らずに2万5000分の1の地図を作れるほどのデータ収集能力があり,今後も大規模災害の状況把握や資源探査などに活躍しそうだ。

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