基調講演「ここまできた実用化、商業化」
高知県海洋深層水研究所の取り組み

谷口道子(たにぐち みちこ)
64年京都大学水産学科卒業。京都大学文部教官を経て、高知県水産試験場、内水面漁業センター、中央漁業指導所で漁場環境、陸上魚類養殖の水質管理、魚病を研究。96年から現職。農学博士。著書として『海産養殖魚類の現状と問題点』(共著・80年)
日本で最も早く本格的な海洋深層水の研究に着手したのが,高知県海洋深層水研究所である。同研究所は昭和60年から室戸岬の海域における研究を開始した。平成元年に取水装置と陸上の研究施設が設置され,現在一日約900トンの深層水を汲み上げて,研究並びに実用化に向けての調査に取り組んでいる。

北大平洋中緯度西部における海洋構造
室戸岬沖では水深500〜1000mの海水が大陸棚の斜面にぶつかって湧昇している。これを内径125mm,長さ2650mの硬質ポリエチレン製の取水管を使って水深320mと344m
の位置で取水している。室戸岬の海洋深層水は,窒素,リン,硝酸,珪素などを多く含み,またその清浄性も極めて高い。その水温は摂氏9.5度で通年安定している。同研究所ではまず取水槽のハードの研究,深層水に関する一般分析や特性の解明を中心に研究をはじめ,現在は実用化に向けた様々な応用研究がなされている。
その第一にあげられるのが海水熱利用である。深層水は低温で安定しているので冷房に使うと4〜5割の省エネ効果があると期待されている。最近,海水熱を利用して冷暖房に使うという研究が実用レベルにまで技術開発が進んできているが,これに深層水を使えばより大きな効果が期待できよう。
次に食品関係である。高知県ではすでに深層水を使った多くの食品が市場に出回っている。味噌,酒,醤油,豆腐,漬物,そしてその利用は菓子類,飲料水にまで及んでいる。実際にこうした食品を手掛ける人によると,深層水は素材との馴染みがよく,食品から水が分離しにくいということである。また長らく待たれていた塩についても,今年地元の出資で製塩会社が設立された。
海水と美容が密接な関係にあることは,フランスで盛んなタラソテラピーなどを見てもわかるが,高知県でも深層水の美容分野への利用が注目されている。シュウウエムラ化粧品ではすでに深層水を使った化粧水の販売を開始し,室戸への工場進出を計画している。
次に注目すべきはアトピー性皮膚炎治療への応用である。高知県では地元の医師らと協力して,アトピー性皮膚炎に対する深層水の効果を研究してきた。臨床データでは6〜7割の患者に有効であるとの結果が得られている。免疫グロブリンのタイプによってその有効性が分かれるとの報告もあるが,これらはあくまでも疫学的なデータであって,詳しい因果関係は現在研究中である。
ところで,海水を使った事業ということでまず頭に浮かぶのは養殖漁業であろう。当然深層水を使った養殖も研究されている。深層水は低温であるので,室戸のような暖かい場所でも低温を好む魚の養殖が可能になった。またその清浄性から,養殖には欠かせない健康な親魚の育成にも期待がかけられている。深層水の低温性,富栄養性,清浄性という特性は,現在の技術を持ってすれば人工的に作り出すことも可能であるが,コストの面からみても,その量からみても深層水の利用には大きなメリットがあるのだ。海洋深層水利用研究所では一日900トンの深層水を排出しているが,それが海域の肥沃化に貢献していることもわかってきている。こうした観察は磯焼け対策などへの重要な示唆となるだろう。
今後は,こうした実用化に向けての研究で得られた新たな情報を基礎研究へフィードバックすることによって,更なる海洋深層水の特性把握,機能解明がなされることに期待したい。
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