日経サイエンス

日経サイエンスは米国の科学雑誌「SCIENTIFIC AMERICAN」の日本版です。

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基調講演「利用研究の現状と未来」

Part.1 海洋深層水とは


酒匂敏次(さこう としつぐ)
57年東京大学工学部卒業。59年東京大学大学院修了。63年テキサスA&M大学院卒業。日本政府、米国政府やフロリダ、テキサス、ハワイ、オレゴンの諸大学で行政、教育、研究のポストを歴任。日本沿岸域学会理事、海洋科学技術センター評議員、海洋深層水利用研究会会長。


海の表面近くでは,太陽光線により植物プランクトンや海藻による光合成が活発に行われている。これに対し,水深200〜300m以深では十分な太陽光線が届かず,光合成も行われない。通常こうした 200m以深の海水を深層水と呼んでいる。   

 地球上に存在する水の97.6%が海水であるが,さらにその約95%を占めて いるのが水深200m以深の深層水である。従って地球上にある水の約90%以上が深層水であるわけで,その量の膨大さは想像を超えるものがある。           

 深層水の成分は場所によって違い,それぞれ違ったところで作られ,違った 履歴を持っているものと考えられている。しかし全体を通して海洋深層水の三大特性として共通しているものに,低温性,清浄性,富栄養性がある。          

 海水は水深200m位までの表層では季節や海域によって温度が大きく変化するが,200m以深では低温でおおむね安定している。                 

 また200m以深では光合成が行われないため有機物が少なく,さらに病原菌なども表層水に比べて非常に少ない。海の中での光合成に必要な栄養塩としては窒素,リン,珪素,硝酸などが挙げられる。表層ではそれらは光合成で消費されてしまうので浅いところほど少なくなっているが,深層では光が足りないために光合成が十分に行われず,それらの栄養塩が消費されずに多く残っている。         

 また,これはすべての深層水に共通というわけではないが,低温の通年安定性, 富ミネラル性なども指摘されている。                     

 深層水と似た言葉で最近よく耳にするものに,深層循環がある。Ocean Conveyor Beltとも呼ばれる深層循環の出発点はグリーンランド沖で,そこで冷やされて海中深くもぐった海水が大西洋, 南極海,インド洋を通り,北太平洋に達すると上層の暖かい水と混ざり合いながら浮上してくる。表層まで浮上してきた海水は,今度は逆にインドネシア海域等を通過してインド洋に入り,再び大西洋へと戻っていくと いう循環を繰り返している。                         

 また最近になって,北太平洋に届く深層循環の水の約半量がグリーンランドではなく南極近海から流れ込んでくるものであることがわかってきた。深層循環の流れは1秒間に 3000万トンという膨大なもので,グリーンランドから北太平洋まで1500〜2000年をかけて旅してきている。                    

 こうした形の循環は海洋の一番深い部分を通っているので,今我々が問題としている水深200〜500mの深層水と全く同じ物というわけではないが,海洋深層水が世界にまたがる資源であることが実感できるだろう。             

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