別冊239

人工知能
機械学習はどこまで進化するのか

竹内郁雄 編

2020年6月18日 A4変型判 27.6cm×20.6cm 128ページ ISBN978-4-532-51239-2

2,000円+税

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人工知能の研究開発が飛躍的に進むいま,社会や私たちの生活はどう変わろうとして いるのか。科学技術や産業にはどのような変化がもたらされるのか。機械学習や深層 学習の研究成果を中心に,AIがひらく未来の展望と新たな課題を解説する。

竹内郁雄 編

まえがき

AIの技術を理解し活用する時代へ  竹内郁雄

 

第1章 ディープラーニングの新展開

爆発的に進化するディープラーニング  Y. ベンジオ

想像力を手に入れたAI 知性獲得につながる3つの方法  G. マッサー

現実世界を計算可能にする深層学習  西川徹

騙されるAI  瀧雅人

 

第2章 AIの学習とヒトの学習

子どもの脳に学ぶAI  A. ゴプニック

勝手に学ぶ子どもロボット  D. クォン

 

第3章 ヒトとAIの関係

あなたの好み探します 実力高まる人工知能  Y. S. アブ=モスタファ
分身AIがつくる社会  P. ドミンゴス
「ノー」と言えるロボット  G. ブリッグズ/M. シューツ
機械は意識を持ちうるか  C. コッホ

 

第4章 見逃せないAIのトピックス

体で計算するコンピューター  古田彩/協力:中嶋浩平
本当に賢いAIを見分ける新チューリングテスト  G. マーカス
アルファ碁ゼロの衝撃  加藤英樹
続・アルファ碁ゼロの衝撃  加藤英樹

 

第5章 研究とAI

研究するロボット  R. D. キング
科学がAIで変わる  吉川和輝
科学の方法論に革新  語り:岡田真人/聞き手:吉川和輝

 

第6章 AIと社会

巧妙化するフェイク動画  B. ボレル
フェイクを見破る  出村政彬
完全自律型兵器  N. シャーキー
スーパーAI恐るべし?  S. ラッセル







まえがき
AIの技術を理解し活用する時代へ 竹内郁雄

 2016年末の日経サイエンス別冊216『AI 人工知能の軌跡と未来』の刊行から3年半が経過した。当時は第3次AIブームといわれていたのだが,3年半経ってもブームが去らないどころか,AIはもう社会にしっかり根付いてきたように見える。実際,日経サイエンスのAI関連の記事は明確に以前より多くなってきた。
上記の別冊のまえがきの最後に「逃げなかった水(逃げ遅れた水?)が,水溜まりなのか,池なのか,湖なのか。これはもう少し様子を見るべきだろうが,第3次“ブーム”が一過性のものでないことは確か」と書いたが,以前は永遠の逃げ水といわれていたAIの尻尾を研究者たちはしっかり捕まえたようだ。彼らの最大の武器が,急激な発展をした深層学習(ディープラーニング)技術である。(以下敬称略)

 その先鋒となった1人がカナダのモントリオール大学教授のベンジオである。同じカナダの研究者2人と一緒に2018年のチューリング賞を受賞した。これはコンピュータ科学の研究者に与えられる最高の栄誉だ。この3人がカナディアン・マフィアと呼ばれていることを瀧雅人の記事「騙されるAI」で初めて知った。この別冊でもベンジオの貴重な記事は第1章の先頭に再掲した。なにしろ今日の深層学習大ブレークの元祖で,書きっぷりに強い勢いが感じられる。
 というわけで,この別冊の大半の記事に深層学習が絡んでいる。第1章はその導入である。深層学習は素晴らしい能力を発揮するのだが,どうしてそんな判断をしたかがブラックボックスというのが問題になってきた。いわゆる深層学習の説明可能性の問題だ。人はAIが何か判断したとき,どうしてそう判断したかの説明がないと不安になる。この問題を解くのに,深層学習内部の「もつれ」をほどく,つまりディスエンタングルメントという概念が重要になってくる。
 また,深層学習が人間の学習と異なる種類のものだということもわかってきた。深層学習をさらに効率よくさせるという課題に研究者は挑戦し始めた。この別冊はこれらの論点にもわかりやすく触れている。人間の脳が持つ偉大な能力「メタ推論」ならぬ「メタ学習」の概念も紹介される。「忘れないと学習できない」という逆説的な論が展開されるのだ。すでに「忘れようとしても覚えられない」境地になっている編者には刺激的だ。つまり,この別冊は深層学習の入門の少し先から話が始まっているということをあらかじめご了承いただきたい。
第1章に,この別冊で注目されるであろう記事「現実世界を計算可能にする深層学習」を西川徹に書き下ろしてもらった。西川は,自動運転や産業用ロボットの高度化などに取り組むAIスタートアップ企業Preferred Networks(PFN)のCEOである。「現実世界を計算可能にする」と聞いて怪訝に思う方がいらっしゃるかもしれないが,ここでの「計算可能」は計算の理論でいう計算可能性のことではなく,シンプルに「コンピュータで計算できる」という意味だ。メタファーとして迫力がある。実際,「現実世界を計算可能にする」はPFNのビジョンとして高く掲げられている言葉である。
 編者は個人的には,床に着地した(軽くはない)電源コードをぶら下げながらちゃんと目的地へ飛行するドローン(数理的にはほぼ解析不可能)を,シミュレーションを活用した深層学習で実現したことに驚いた。さらに,CEOという立場でありながら,研究者・技術者のマインドを維持し続けていることにも感銘した。
 深層学習の結果が人間の学習の結果と異なる最もわかりやすい例が,人は騙せないのに,AIを簡単に騙せる画像の存在である。その本質的な理由についてまだ侃侃諤諤の議論があるようだ。これをもって機械は所詮人間と同じにはなれないと思う読者がいるかもしれないし,研究のタネは尽きまじと思う方もいるだろう。

 両者の学習の違いの本質を調べる研究も進んでいる。第2章の「AIの学習とヒトの学習」でその様子が窺える。AI研究の初期に「機械で人間の知能を実現する」という目的のほかに,「機械で知能を模倣する研究を行うことによって,人間の知能を研究する」という目的があった。今日,深層学習やロボット工学という強力な武器を得て,その方法論が再び盛り上がるかもしれない。

 第3次「AIブーム」では,ヒトとAIの関わりや関係が大きな注目を集めるようになってきた。これまでの「AIブーム」ではあまり見られなかった現象である。第3章「ヒトとAI」はそれに関する話題を集めた。人を補助するAI,人と共感できるロボット,人とAIの付き合い方といった記事が続くが,最後のコッホの「機械は意識を持ちうるか」は,AIが始まってからずっと議論されている哲学的な話題である。実は前の別冊にもほぼ同じ話題のコッホの記事があるが(2011年9月号から収載),これを見るとこの9年間で研究がどれくらい進化したかを知ることができよう。
なお,導入の意味もあり,最初の2つの記事は前の別冊から再掲した。年代が古くなく,今日的な話題を十分キャッチアップしている。

 さて,別冊を作ろうとして,日経サイエンスの過去の記事をグルーピングしようとすると,どうしても一匹狼的なものが出てくる。まさか,記事1つで1つの章というわけにはいかない。そこで,前の別冊以降の記事で最近の興味深いトピックスを扱っている4つの記事を「見逃せないAIのトピックス」というタイトルの第4章にまとめた。
編者に最も響いたのは,最近急激に盛り上がってきたリザバー(reservoir,貯水槽のことだが文字通りの貯水槽のことではない)を使ったアナログ計算である。量子計算にせよ,リザバー計算にせよ,アナログ計算が現代的な姿でよみがえってきたということだろうか。
AIのリトマス試験紙といわれたチューリングテストはいまや単純な方法で簡単に突破できるようになった。現代の技術水準に合った新しいチューリングテストを整備することが急がれよう。
また,もはや人間が勝てなくなるまで強くなった囲碁をプレイするAlphaGoの後継AlphaGo Zeroについての記事には,その後の発展,囲碁以外のゲームへの展開や,人間社会のリアルな問題も解決するぞ,という意気込みの歩みを研究者人脈とともに著者の加藤英樹に追記してもらった。

 第5章は「研究とAI」である。前の別冊にも収録したキングの「研究するロボット」は面白かったが,吉川和輝,岡田真人の「科学がAIで変わる」はそれよりさらに進んだ,機械学習ベースでの科学研究が紹介される。複雑すぎて手に負えない問題でも,AIは問題を「複雑なままで」取り扱うことができる。これはある意味,研究手法のパラダイムシフトといえるかもしれない。

 最後の第6章は「AIと社会」と題されているが,AIが社会にどんどん入ってきたときに負となり得る問題に関わる4つの記事からなる。最近のテレビなどを見ると恐竜の映像がまるで実写に見える。いまやスマホでも簡単に人の顔を加工して,偽(フェイク)の顔に変形することができるようになった。この流れは今後も止まらないだろう。それとイタチごっこのようにフェイクを見破る技術も発展している。フェイク動画について正しい知識を持っておくことは現代人には必須だと思われる。
シャーキーによる,AIを使った完全自律兵器の記事は,とても恐ろしい未来についての警告だ。このまえがきの冒頭でも述べた「説明可能性」が本当に重要な課題ということが実感できるだろう。
最後のラッセルの短い記事(再掲)は,ロボット工学に影響を与えた古典的なアシモフのロボット3原則と比較して読むと面白い。価値観に重点をおいた,いかにもAI的な視点だ。ちなみに,アシモフのロボット3原則は行動に重点をおいている。

 第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない。
第2条 ロボットは,第1条に反しないかぎり,人間の命令に服従しなければならない。
第3条 ロボットは,第1条および第2条に反しないかぎり,自己を守らなければならない。

 こう見てくると,研究者たちはAIの尻尾を捕まえたが,まだボディまでは捉えていないという印象だ。まだまだ研究は続くだろう。また,先進的な技術は,多かれ少なかれ,諸刃の剣の性格を持つ。人々がみな,技術を正しく理解し,技術を正しく使うことが,AIがリアルになってきた現在,いままで以上に重要になってきた。
多彩な記事に満ちたこの別冊で,ぜひAIのState of the Art,いわばAI@2020を窺い知っていただければと思う。

2020年6月

竹内郁雄(たけうち・いくお)
東京大学名誉教授,IPA未踏IT人材発掘・育成事業統括プロジェクト・マネージャ,一般社団法人未踏代表理事,(株)ギブリー技術顧問。1969年東京大学理学部数学科卒業,71年同修士課程終了。NTT基礎研究所,ソフトウェア研究所にて,AIを支えるプログラミングシステムの研究開発を行う。1997年から,電気通信大学情報工学科,東京大学情報理工学系研究科創造情報学専攻,早稲田大学基幹理工学研究科情報理工学専攻の教授を歴任し,主にIT防災・減災の研究に携わる。2000年から10年間,コンピュータ囲碁フォーラム会長。現在はIT人材発掘・育成に専念している。