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スパイにもたせる暗号
デニス・シャシャ
数論は,かつては素数の不思議な性質に関する深遠な学問と考えられたが,今では 暗号の基礎をなすようになった。電子商取引でよく使われる公開鍵暗号システムは, 2つの素数を掛け合わせるのは簡単だが,そうしてできた数を因数分解するのは難し いという,証明はされていないが広く信じられている理屈を利用している〔この公開 鍵暗号アルゴリズムは,開発者の名前をとって,リベスト(Rivest)‐シャミア( Shamir)‐エイドルマン(Adleman)の公開鍵暗号アルゴリズム,略してRSAと呼ばれ ている〕。
2つの大きな素数の掛け算はいわゆる「一方向関数」の1例だ。通常の掛け算にはコ ンピューターを使えば100万分の数秒しかかからず,計算時間はその数を2進法で表し たときの桁数(ビット数)の2乗に比例して増える。一方,積の値からもとの2つの素 数を見つける因数分解には,512ビットでさえ何時間もかかり,しかも,積の桁数(2 進法表現)のベキ乗で増大していく。公に知られているかぎり,2048ビットの因数分 解は実行不可能だ。高速の因数分解アルゴリズムがもしあるとすれば,軍や産業界の スパイ活動のために秘密裏に応用されるだろう。
今月の問題は,スパイの暗号だ。あなたは隣の敵国にスパイ団を送り込もうとして いる。彼らが国境を越えて帰ってくるときに,国境警備隊員にパスワードを提示して ,自分が密入国者や敵のスパイではなく自国のスパイであることを証明させたい。国 境でもたもたするわけにはいかないので,国境警備隊員がすぐに検証できるパスワー ドでなくてはならない。また,国境警備隊員はバーでつい口を滑らせることがあるの で,パスワードそのものを彼らに教えるわけにはいかない(スパイの口の堅さは信じ てもよい)。国境警備隊員にはどのような情報をもたせ,スパイにはどのようなパス ワードを提示させるようにすればよいだろう?
このパズルは1950年代にマッカーシー(John McCarthy,プログラミング言語Lisp を発明した人工知能理論の先駆者)が作り,ラビン(Michael Rabin,非常に多数の 重要なコンピュータアルゴリズムを設計した陽気な科学者)が解いた。物足りないと いう読者は,素数を使わないやり方に挑戦してみてほしい。
山崎秀記(やまさき・ひでき)
一橋大学商学部教授。
専門は計算機科学。
Dennis E. Shasha
ニューヨーク大学クーラント研究所教授。
専門は計算機科学。
原題名
Prime Spies
(SCIENTIFIC AMERICAN October 2002)
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