パズルの国のアリス

アナゴ先生の美術作品(問題)

坂井 公(筑波大学アソシエイト) 題字・イラスト:斉藤重之

 アリスはグリフォンに誘われて不思議の国で開催されている美術展に来ている。「この美術展には,俺が通っていた学校の先生も作品を出展しているはずなんだけど,どこにあるのかなあ」と懐かしそうに言うグリフォン。アリスは「以前,学校の話を聞いたことがあったような気がするわ」と記憶を手繰るが,なかなか思い出せない。作品を鑑賞しながら会場を進んでいくと,妙ちくりんな姿の2人組が1枚の絵画を前に談笑しているのが見えてきた。

 一方の姿に見覚えがあったアリスは記憶の底をたどり,「あ,あれは,えーと。そうだ。ニセウミガメさんだわ」。確か,ハートの女王の言いつけで,グリフォンに案内されてニセウミガメの身の上話を聞きに行ったっけ……。そのときに主に聞かされた話が,海の学校での課目についてだった。

 同様にニセウミガメの姿を認めたグリフォンは「よお,久しぶりだな」と声をかけ,「相変わらず泣いているか?」と軽口をたたいた。しかし,すぐに隣りの人物に気がついて「これはこれは,アナゴ先生。もうお年でしょうからとっくにお亡くなりになったかと思っていましたのに」と失礼極まりない挨拶をし,続ける。「今回の美術展にも作品をお出しになったそうで。今,他の作品を鑑賞しながら探していたところです」。

 アリスは「アナゴ先生」と聞いて,ニセウミガメの身の上話にそのような恩師が出てきたが,担当教科があまりに奇妙な名称なので何を教えているのかさっぱりわからなかったことを思い出した。どうやら美術系の教科だったらしい。

 アナゴ先生は「この作品じゃよ」と目の前に展示されている白黒の水墨画のような絵を胸鰭で指し示した。グリフォンは「ホー」と感心したが,アリスには何を描いた作品なのかわからない。グリフォンがアリスに言う。「テーマがわからないだろうが,そんなことはどうでもいいんだ。すごいのは技法さ。一見,白,灰色,黒でグラデーションが施されているように見えるだろう? 違うんだ。先生は灰色なんて一切使っていない。キャンバス全体に白い点と黒い点を並べていくことで作品を仕上げていらっしゃるのさ。すごいだろう」。

 アリスにはそのすごさがピンとこなかったが,称賛されたアナゴ先生は満悦顔だ。ニセウミガメもお追従半分に,「先生は最近,1つの条件を課して作品を作ろうとしていらっしゃるんだ。この作品もそうだけど,今までのどの作品も,よく探すとその中の4つの点の組で,長方形の頂点をなし,しかも4点すべてが同色というものがあるらしい。そこで,そういうことのない作品を作りたいと考えていらっしゃる。つまり,長方形の頂点をなすような同色の4点をキャンバス上から選び出すことができないような作品だ」。

 グリフォンはその言葉を聞いてしばらく考えていたが,やがて悲しそうに「先生,どんなに長生きされようと,お気の毒ですが,それは不可能です。それどころか,白と黒以外に,赤,青,緑など何色使って作品を作ろうと,うまく4点を選べば,長方形の頂点をなし,しかもすべて同色という状況が必ず生じてしまいます」。

 グリフォンがその理由を説明しようとしたところ,ニセウミガメが「先生,おかわいそうに」と顔を覆って泣き出してしまい,説明を続けるどころでなくなってしまった。読者にはグリフォンの発言の根拠を考えていただこう。

 また,アナゴ先生の望みが「ちょうど10cm離れた同色の2点が存在しないような作品を作りたい」というものであったらどうだろう。このような作品は作れるだろうか? ただし,キャンバスの大きさは1m×1mとする。もしこの課題が不可能だとしたら,色数を増やすことによって課題を達成することはできるだろうか?

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