パズルの国のアリス

またまた小切手帳勝負の双子(解答)

 まずウォーミングアップ問題を考えよう。小切手帳が2冊の場合だ。実はこの場合,小切手帳がともに奇数枚つづりであれば,先手番のダムには,相手が間違えない限り額面不明の小切手を獲得する手段はない。なぜなら,ダムがどちらの小切手帳をポケットに入れて他方を2つに分割しようとも,その結果は奇数枚つづりと偶数枚つづりの小切手帳を1つずつ残すことになるからだ。すると,ディーは残ったうちの奇数枚つづりをポケットに入れ,偶数枚つづりの小切手帳を奇数枚つづり2つに分けることができる。このプロセスは,いつまでも繰り返すことができる。最後には1枚つづりの小切手帳2つだけになるから,ダムはその2枚を得て,額面不明の小切手をディーに献上するしかない。

 この結末が見えていれば,伯父からもらった2冊の小切手帳が奇数枚つづりのときにダムがとれる最善策は,不明小切手の額面があまり大きくないことを祈って,早々に2冊の小切手帳をポケットに入れる,つまり(1)を選択することだろう。

 逆に2冊の小切手帳のうち少なくとも一方が偶数枚つづりであれば,ダムは他方を自分のものにし,偶数枚つづりの小切手帳を2つの奇数枚つづりに分けることができる。すると,今度はディーがあまり愉快でない立場に追い込まれ,残った2つの小切手帳を得るだけで満足しなければならないことになろう。

 小切手帳が3冊ある場合,この勝負はいささか面倒な様相を呈するが,まず重要なポイントを押さえておくことにしよう。それは,2冊の場合と同様,伯父からもらった小切手帳のつづり枚数がどれも奇数だと,先手のダムには額面不明の小切手を獲得する手段がないことだ。なぜなら,選択肢の(2) を選んだ場合,この操作の結果は,1冊の偶数枚つづりを除いてあとは奇数枚つづりばかりということになるから,ディーは奇数枚つづりの1つをポケットに入れ,偶数枚つづりの小切手帳を2つの奇数枚つづりに分けることで,すべてを奇数枚つづりの状況に戻すことができる。よって,最後には1枚つづりだけになり,ダムはそれらを得る代わりに,額面不明の小切手を断念せざるを得なくなる。

 逆に奇数枚つづりと偶数枚つづりとがともにある場合,ダムはもう1冊の小切手帳(それが奇数枚であろうと偶数枚であろうと)をポケットに入れ,偶数枚つづりを2つの奇数枚つづりに分けることで,全小切手帳を奇数枚にしてディーに手番を回すことができる。

 やや難しいのは,3冊とも偶数枚つづりの場合だが,この場合は,分割したときに奇数枚つづりを作ると負けだから,3冊の小切手帳の枚数を半分にした場合に帰着させて分析することが可能だ。6枚,2枚,2枚つづりの場合は,半分にするとすべて奇数の3枚,1枚,1枚になる。解析すると,この場合は先手のダムにはうまい手段がないことがわかるのだが,細かい場合分けを繰り返すのも煩わしくなってきたので,この辺で一気に解答を述べてしまおう。ゲームの帰趨を決定するカギとなるのは各小切手帳の枚数の「2進付値」である。

 この言葉が耳慣れないとおっしゃる読者がおられるかもしれないが,これは整数論では基本的な解析手段の1つで,一般にpが素数のときにp進付値が定義される。付値の理論やその応用はかなり広大な分野に広がっているので,関心のある人は適当な教科書を参照していただくとよいが,定義自体は簡単で,整数のp進付値とは,その整数がpで何回割り切れるかということだ。正の整数nは2で割り続けていくといつか奇数になるので,この奇数をaとするとn=2eaと書ける。このenの2進付値でありv2n)と表記される。特にnが奇数ならばv2n)=0だ。

 さて,ダムの手番での3冊の小切手帳のつづり枚数をそれぞれklmとしよう。このとき,ディーが額面不明の小切手を確実に獲得できるための条件は,v2k)=v2l)=v2m)である(ダムとディーの立場を入れ替えても同じ)。どうしてだろうか。

 今,条件が成立しているとして,この共通の付値をeとしよう。k=2eal=2ebm=2ecと書くと,abcは奇数である。ダムが小切手帳のうち1冊をポケットに入れ,1冊を二分したとしても,1冊はそのままである。つまり,その1冊の付値はeのままであるから,操作後も付値の条件が成り立つには,分割してできた2冊の小切手帳の枚数も同じ付値eを持つようにするしかないが,abcがいずれも奇数であることから,これが不可能であることを読者は了解されよう。例えばk=2ea枚つづりを2つに分けて2ea1枚と2ea2枚にできたとすれば,aa1a2でaは奇数だからa1a2の一方は偶数でなければならない。

 逆にv2k),v2l),v2m)がすべて等しいということはないとしよう。対称性から,必要なら並ベ替えてv2k)>v2m)としてよい。するとダムは,l枚つづりの小切手帳をポケットに入れ,k枚つづりを二分して,それらがともに付値v2m)を持つようにできる。最も簡単な分け方はkを2v2mk−2v2m に分けることだ。

 こうして,いったんつづり枚数の付値がどれも等しいという状況になると,そのときの手番の人は,相手が間違えない限り決してその状況から抜け出せない。というわけで,そういう状況になっていたなら,さっさと3冊の小切手帳を自分のものにし,額面不明の小切手をあきらめるのが得策だ。それに,伯父さんは知恵試しを仕掛けてはきても,そんなに意地悪ではないので,ゲームの帰趨を正しく見抜けば,ひどく不利なことがないように不明小切手の額面を決めているような気がする。

 小切手帳が4冊以上の場合でも似たようなゲームは成立するが,そのゲームの解析は意欲的な読者にお任せしようと思う。

問題はこちらです