パズルの国のアリス

ハリネズミが描く三角形(解答)

まずウォーミングアップの問題から考えよう。この問題は高校数学でもおなじみかもしれない。実は,もっと一般的な設定でも少しも難しくならないので,次のようなセッティングで問題を考えよう。ABCを任意の三角形とする。ABをabに内分する点をF,ACをcdに内分する点をEとし,FCとEBとの交点をRとする(下図)。このとき,RはFCやEBを何対何に内分するだろうか?

 この問題の解法はいくつもあろう。確実な方法の1つは,例えばAを原点とする座標を割り合てて,E,F,Rの座標をBとCの座標で表現してしまうことだが,求めたいのは長さそのものではなく,その比だから過剰な計算になってしまい,相当に面倒だ。

 多分,高校数学で標準的なのは,直交座標を使うのではなく,Aを起点とするベクトルにすべてを帰着させる方法だろう。などをで表してしまえば,ベクトルに関する1次方程式を解くことで比は求まるし,座標を直接使うよりは計算も簡単だが,この方法で比を求めるのは読者にお任せしよう。

 結構,便利な方法の1つに「メネラウスの定理」を使うというのがある。ご存じでない読者のために簡単に述べると,この定理は,直線が三角形を横切っている図形で成り立つものだ。例えば,上図ならば△ABEを直線が横切っているとみることができ,その直線は三角形の辺AB,BE,EAやその延長とそれぞれ点F,R,Cで交わっている。このとき,メネラウスの定理は,

となることを主張している。証明は,ネット検索でいくらでも見つかるだろうから,ここでは省略するが,上図の比をそのまま代入すると,

となり,

だから,BRとREの比はbcd):adとなることが簡単に得られる。

 同様に上図で△AFCを直線が横切っているとみれば,

となり,FRとRCの比はbcdab)であることがわかる。

 この方法は計算が極めて簡便という利点があるが,メネラウスの定理を使う対象となる三角形と直線がどれかを見抜かなければならないことと,定理の主張が複雑な形をしていてやや覚えにくいという難点がある。定理の形は,「三角形の頂点,直線と3辺の交点が順繰りに出てくる」形をしているので覚えられないこともないのだが,少なくとも筆者の直感には訴えてくるものがないから,間違えやすく間違えてもそれに気づきにくい。

 それと同じくらいに計算は簡単で,直感的にもわかりやすい技法があるので,紹介しよう。ご存じの読者もおられようが,名付ければ「重心法」とでもいうべきもので,バランスが取れるように図の要所要所に質点を置いていこうというものだ。英語の本で「mass point technique」と書いてあるのを見たことがあるので「質点法」でもよいかもしれない。実は,2017年11 月号「展示台の設計」(『パズルの国のアリス3 ハートの女王とマハラジャの対決』に収載)で3次元図形の場合に使ったことがあるのでご記憶の読者がおられるかもしれない。

 上図を使って説明しよう。バランスを取るといっても,質点の質量や支点を工夫する必要はある。図でABをシーソーに見立て,Fを支点としてバランスを取るには,AとBに質量比baの質点をそれぞれ置けばよいことは,力のモーメントを計算すれば明らかだろう。別に式を立てる必要もないのだが,この事実を式で表現するためにb・A+a・B=(ab)・Fと書くことにしよう。この式はAとBに置かれた2つの質点の重心がFにあるので,そこに質量abの質点があるのと同じにみなせるということを表現している。移項するとb・A+a・B−(ab)・F=0という式が成り立つ。この式は,「シーソーABをA,Bでそれぞれ下向きにbaの力で押し,Fで上向きにabの力で押すとバランスが取れてシーソーが動かない」という意味に解釈できるので,そのほうが直感に訴えやすいかもしれない。

 同様にd・A+c・C=(cd)・Eが成り立つ。ここでAにかかる力を揃えるために,両式を定数倍して,bd・A+ad・B=(abd・F,bd・A+bc・C=(cdb・Eとしよう。重心に関わる+という演算の可換性・結合性を認めれば,これから

bc・C+(abd・F=bc・C+(bd・A+ad・B)=(bc・C+bd ・A)+ad・B=(cdb・E+ad・B

が得られるが,この式は△ABCをシーソーに見立てA,B,Cにそれぞれbdadbcの力をかけてやれば,その重心はCFとBEの交点(すなわちR)であり,かつその点がCFを(abdbcに内分し,BEを(cdbadに内分することを表している。

 重心法は,巧妙に使えば(例えば2017年11月号の「展示台の設計」)3次元などの諸問題にも応用できる便利な道具だ。また触れる機会もあるだろうから,今回はこれくらいにして問題に戻ろう。

 上図において,BF:FA=AE:EC=1:xとするとadxbc=1だから,メネラウスの定理や重心法で求めた比に代入すればCR:RF=x2x:1,BR:RE=x+1:x2だ。さらに問題の図では,対称性によりCS=BR,SF=REだから,結局SとRはCFをx+1:x2−1:1に3分割することがわかる。同様にT,SもADを(R,TもBEを)同じ比に3分割する。よって

だから,△RSTの面積が△ABCの半分になるには2(x−1)2x2x+1を解いて,x=(5±√21)/2であることが必要だ。符号はどちらをとってもよいが,問題文によれば,FはAよりもBに近いと考えられるので,x=(5+√21)/2が正解だろう。もしAB=BC=CA=1ならば,AF=BD=CE=x/(1+x)=(7+√21)/14となる。この位置でハリネズミをピタリと止めるのは3人組の技量に期待しよう。

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