パズルの国のアリス

続・ハリネズミロボットの操作合戦(解答)

考え方のコツがわかるまでは,多くの人は最初のウォーミングアップ問題ですら,ちょっと戸惑うかもしれない。しかし,しばらく考えれば,3台のハリネズミの位置は例えば次のようにして入れ替えられることに気づくだろう。まず,ヤマネがAにいる自分のハリネズミをC→Bの方向に平行にBCと等距離だけ動かす(下図)。

 ヤマネ(のハリネズミ)の新しい位置をDとすると,ACBDが平行四辺形をなしていることがポイントだ。するとCにいる三月ウサギ(のハリネズミ)がBDと平行に移動し,Aに来ることが可能になる。次には帽子屋がBからCに移動することが可能になり,最後にヤマネがDからBに移動すれば,3台の位置の入れ替えが完成する。

 では,三月ウサギの位置Cをそのままにして,ヤマネと帽子屋だけが位置を入れ替えることは可能だろうか? 今度は色々とやってみてもうまくいかない。そこでこれは不可能なのだろうと予想し,数学の常套手段として,ハリネズミの操作で変化しない不変量を探すことになるが,それは何だろうか? 気がつきにくいかもしれないが,それは3台のハリネズミが作る三角形の「向き」である。ハリネズミたちの現在位置をヤマネ(A)→帽子屋(B)→三月ウサギ(C)→ヤマネ(A)の順で巡回するとき,その向きが反時計回りであれば,三角形ABCの向きは「正」であるとする。逆に時計回りであれば,向きは「負」であるとする。例えば,上図では三角形ABCの向きは負である。

 少し考えればわかることだが,3人組がハリネズミをどう操作しようと,白の騎士の設計による制限された動きのせいで,この「ヤマネ→帽子屋→三月ウサギ」の3台のハリネズミが作る三角形の向きは決して変化することがない。もし,上図でヤマネと帽子屋だけが位置を入れ替えることがあったとすれば,それは最初負であった三角形の向きが正に変わったことになる。それは許された操作では不可能である。

 実は,この三角形には向き以外にも不変量が隠れている。もしかしたらそちらのほうが向きよりも気がつきやすいかもしれないので,気がついた読者もおられるだろう。それは三角形の面積である。制限されたハリネズミの動きでは,問題の三角形の底辺と高さが一定だから,面積が変化しないことは直ちにわかる。

 この向きと面積をまとめて表す不変量が存在する。今,適当な座標を導入し,ヤマネ,帽子屋,三月ウサギのハリネズミの位置をそれぞれA(a1a2),B(b1b2),C(c1c2)としよう。このとき行列式

の値がその不変量だ。ここから先は,大学初年で習う線形代数の知識があるとわかりやすいが,上式の右辺によって値は計算できるから,そのような知識がなくても確認は容易と思う。実は,三角形ABCの面積がSであるとき,その向きが正ならば上の行列式の値は2Sになり,向きが負ならば−2Sになる。この値が不変量となるゆえんだ。

 実際,AにいるヤマネのハリネズミがC→Bの方向にBCのα倍だけ動く場合,その座標は(a1a2)から

 (a1a2)=(a1αb1c1),a2αb2c2))

に変化する。よって移動後の行列は

このとき,右辺右の行列の行列式の値は1だから,移動後の行列の行列式は変化しない。帽子屋や三月ウサギのハリネズミが動く場合も同様だ。

 最初(0,0),(2,0),(0,2)にいた場合,問題の行列式の値は4である。位置(0,0),(0,3),(3,0)の場合の行列式の値は−9だから,この位置への移動は不可能だとわかる。他方,位置(0,0),(4,0),(0,1)の場合の行列式の値は4だから,この位置へは移動できる可能性がある。実は,行列式の値が一致することは十分条件でもある。つまり,その場合は必ず移動可能だから,以下ではその手順の概略を述べよう。

 ヤマネ,帽子屋,三月ウサギのハリネズミがA,B,Cにいるとして,それをD,E,Fに移動したいとしよう。ただし,三角形ABCとDEFは面積と向き(つまり行列式の値)が等しいとする。

 まず,Aにいるヤマネのハリネズミを位置Dに移動する手順を示そう(下図)。Cを通りADに平行な直線lを引く。続いてBを通りACに平行な直線mを引き,lmの交点をGとする。そこで(ACとBGは平行だから)Bにいる帽子屋のハリネズミをGに移動する。次に(ADとCGは平行だから)AにいるヤマネのハリネズミをDに移動する。これで目的は達したが,このとき三月ウサギのハリネズミは動かずにいることがミソだ。

 上と同様の手順で,いまはGにいる帽子屋のハリネズミをEに移動する。ただし今度はDにいるヤマネのハリネズミは動かない。こうして,ヤマネと帽子屋のハリネズミは目標位置に来たが,実はABCとDEFの面積と向きが一致しているという条件により,三月ウサギのハリネズミの現在位置とFとを結ぶ直線はDEと平行であることが保証されている。従って,あとはただ三月ウサギのハリネズミをFに移動させればよい。

 念のため注意しておくと,上の手順が何の支障もなくできるとは限らない。例えばA,C,Dが一直線上にあれば,最初の段階での直線lmが平行になり,Gが作図されないなどのことが起こりうる。しかし,最初に三月ウサギのハリネズミの位置を少しずらして始めるなどの工夫により,最終的な目標は必ず達成できる。読者には(0,0),(2,0),(0,2)から(0,0),(4,0), (0,1)への移動などを実際に試みていただきたい。

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