パズルの国のアリス

料理番を出し抜け(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 公爵夫人の料理番はルンルンとご機嫌だ。珍しい食材が手に入ったからで,どう料理しようかと朝からあれこれと考えている。「よし,これでいこう」と心に決めて調理場に入ると,当の食材が消えている。実は,その食材とは生きたスッポンで,料理法についての考えがまとまるまで,水を張った器に入れて調理場に放置しておいたのだが,どうやら器が浅すぎてそこから這い出したらしい。しかも裏口の扉がわずかに開いていたので,その隙間をすり抜けて外へ逃げ出したようだ。

 放置しておいた時間はかなり長いが,しょせんスッポン,足は遅い。何とか捕まえられるのではないかと,急いで裏口を跳び出してあちこち探してみたがなかなか見つからない。キョロキョロしながら裏口近くの沼の岸に差しかかると,少し遠くにスッポンの姿が見えた。スッポンはちょうど沼に飛び込むところだった。岸のあたりの水深は浅い。料理番も反射的に沼に飛び込み,追跡劇が始まった。

 水の中ではスッポンも結構速い。浅瀬とはいえ水の中を走る料理番の速さとそう大差はない。しかも,岸からある距離以上に離れると急に水深が深くなるので,スッポンはそこまで逃げれば,料理番の追跡から逃れることができる。このことを知ってか知らずか,スッポンは脇目もふらずに岸に垂直な方向に一定の速さでまっしぐらに泳いでいく。一方,料理番はというと,スッポンがどの方向に進むつもりかわからないので,いつでもその時点にスッポンのいる方向を目指してやはり一定の速さで走っていく。

 結局,スッポンは捕獲されたが,あとほんの少しで逃げ切れるところだった。料理番は捕獲時に指をしたたか噛みつかれて相当に痛い思いをしたが,せっかくの食材を失わなかったことはまずめでたしといったところだろう。

 ところで,料理番がスッポンを捕まえるまでにスッポンが泳いだ距離と,料理番とスッポンが同時に沼に飛び込んだときの両者の距離はどちらも20mだったという。そこで読者にはまず,料理番が水の中を走る速さとスッポンが泳ぐ速さの比を求めていただきたい。

 もちろん料理番のほうが速かったからこそ,スッポンを捕まえることができたわけだが,もし,両者の速さが同じなら,両者の軌跡はだんだん近づき,スッポンのほぼ真後ろを料理番がだいたい一定の距離を保って追いかける展開になる。浅瀬を越えてスッポンが逃げ切り,料理番があきらめるまでは,これが続くが,この一定の距離とはどのくらいか読者にはわかるだろうか。

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