パズルの国のアリス

料理番を出し抜け(解答)

 問題につけた図を見て,料理番の軌跡が円弧だと誤解された読者がおられるかもしれない。そうだとすると,最初の問題の速さの比はπ/2≈1.57と簡単に得られるのだが,残念ながらその比では捕獲地点が実際には岸からもう少し遠くなる。

 料理番の軌跡は円弧ではないので,その形や長さを正確に定めようとすると,普通は微積分計算が必要になる。ここではなるべく初等的に比を求める方法を紹介しよう。しかし,複雑な計算はしないまでも微積分の式を利用したほうが説明しやすいから,そういう式が苦手な読者にはご容赦願いたい。

 説明を簡単にするために岸は東西に走っていて,スッポンの向かう方向は真北としよう。また,スッポンが泳ぐ速さをv(従って20mを泳ぐのに要する時間は20/v),料理番が浅瀬を追いかける速さをRvとする。このRを求めることが最初の問題だ。着目するとよいのは,時々刻々と変わる料理番とスッポンとの距離だ。追跡途中のある時刻tt=0にスッポンと料理番が沼に飛び込んだとする)において,料理番から見たスッポンの方角と真北がなす角をαt)としよう(右図)。

 スッポンは料理番の位置など気にせずに真北にvの速さで進むから,料理番から見たとき,スッポンが離れていく速さはvcosαt)だ。一方,料理番はそれを速さRvで追っているのだから,その距離はRvvcosαt)のペースで縮まっている。さて,ちょうど時刻20/vに料理番がスッポンに追いついたということは,最初20mあった距離が0になったということだから,積分記号を援用して表現すると

となる。この式から簡単な計算で

が得られる。一方,この間に料理番が北方向にどのくらい進んでいるかを考えてみるとそれはもちろん20mなのだが,時刻tにおける料理番の速度の北方向の成分はRvcosαt)だから

が成り立ち,その結果

となる。(A)と(B)から,cosαt)やその積分を実際には計算することなしに代数方程式R−1/R=1が得られ,これをR>0に注意して解けば,

だ。これが「黄金比」と呼ばれることを読者はご存じだろう。

 ちなみに,同じ考え方は速さの比や距離の比が別の値であっても有効で,例えば速さの比Rが1.5だった場合,3/2ー2/3=5/6だから,最初20m離れている場合,岸から20÷5/6=24mの地点で料理番はスッポンに追いつくことがわかる。

次に,速さの比Rが1,つまり料理番とスッポンの速さが同じだった場合について考えよう。上図で時刻tにおける料理番とスッポンの距離をpt)とし,料理番とスッポンが南北方向にどのくらい離れているかをqt)とする。明らかにqt)=pt)cosαt)だが,ポイントはpt)+qt)がtに無関係に一定だと気づくことだ。なぜなら,時刻tにおいて,料理番は単位時間あたりpt)をvだけ縮めようとし,逆にスッポンはvcosαt)だけ伸ばそうとするから,その変化量はdp/dt−vvcosαt)である。他方,qt)について考えると,料理番の動きによりqt)は単位時間あたりvcosαt)縮み,スッポンの動きによってv伸びるから,その変化量はdq/dtvvcosαt)である。結局,dp/dtdq/dt=0だからpt)+qt)はいつも一定で,最初の20mがずっと保たれる。料理番がスッポンのほとんど真後ろを追いかけるようになるとqtとqt)はほぼ等しいから,その距離はだいたい10mである。

問題はこちらです