パズルの国のアリス

正多角形を小さくたたむには?(解答)

 自己交差を持たない閉曲線を単純閉曲線といい,有限個の線分から構成される単純閉曲線を単純多角形と呼ぶ。これらは問題を解くのに直接必要のない知識だが,問題の内容を簡潔に述べるのには役に立つ。つまり,問題は「奇数本の単位長の辺からなる単純多角形の面積はどこまで小さくできるか」ということだ。そのような多角形は正3角形の部分を除いて面積がほぼゼロという状態にたためるということは,大工が考えた図の中央のものから明らかだ。辺長を1とすると,正3角形の面積は√3/4だから,この値にいくらでも近づけることはできる。ところが,面積がそれよりも小さくなるようにたためるかというと,不可能だというのが結論だ。

 とはいっても,辺数が多くなれば,うまくたたむことで,面積を√3/4よりも小さくできそうな気がするのが,この問題の厄介な点だ。

 さて,大工が考えた正7角形のたたみ方の3つの例だが,左側のものは3つの広めの領域が面積比1:2:1くらいで残っており,足し合わせると正3角形よりも大きくなる。中央のものはそもそも正3角形がほとんどそのままの形で残っているし,右側のものも両側に面積比1:1くらいの領域があり,足し合わせると正3角形以上になる。そこで,例えば下図のように,いくつかに分割して考えるとうまくいくかもしれない。どの図の面積もABC部分の面積の和である。左図のACは3角形なのでこれ以上つぶすことはできないし,Bは長さ1の辺3つとそれよりも短い辺2つからなるが,たたみ方を変えてもあまり小さくなりそうもない。中央の図のAや右図のACもそうだ。どうやら辺長が指定された多角形には,固有の「つぶれにくさ」があり,それをうまく表現できれば,多角形を分割することで,問題をより辺数の少ない多角形に帰着できるかもしれない。

 そこで辺長が指定された多角形P の「つぶれにくさ」を表現する指標として,やや天下り的ではあるが,n角形P の辺長をe1,・・・・・・,enとするとき,次のµP)を考える。

ここでminは最小値をとるという操作を表し,各xiは「整数」かつ「xiの総和が奇数になる」という条件を満たして動くものとする。定義の上では各xiの動く範囲は無限になるが,最小値をとっているから,xieiから1以上は離れない有限の範囲を考えるだけですむ。というのは|eixi|>1ならば,xiの代わりにx′ixi±2を考えることで,奇偶性を変えずに|eix′i|<1とできるからだ。

 例えば下図の左のAの場合,辺長を1,1/4,1とすると,x1x2x3=1とすることで最小値が達成され

µA)=1ー(|1ー1|+|1/4ー1|+|1ー1|)=1/4

となる。Bであれば,辺長は1,1/4,1,1/4,1だから,xiをそれぞれ1,0,1,0,1とすることで,µB)=1/2となる。xiの総和を奇数としたのは,単位長の辺を奇数個持つ多角形との近さを

で表現するためだ。それが0に近いほどつぶれにくいだろうということで,1からそれを引いたものを「つぶれにくさ」の指標とする。確かにPが奇数個の単位辺からなる多角形の場合,すべてのxiを1とすることでµP)は最大の1になる。

 先へ進む前に,この指標の性質について1つ触れておこう。n角形Pが1より長い辺eiを持つとき,eieiー1と1の2つの辺に分けた“n+1角形”をP(内角の1つは180°)とすると,µP)=µP)だということだ。このことは,明らかですましてもよさそうだが,厳密に証明しておこう。

 inつまりPe1,……,enー1enー1,1という長さの辺を持つとしても一般性を失わないことはよいだろう。いま,µP)を実現するxiたちをとると,

となる。このときyixii=1,……,nー1),ynxnー1,yn+1=1とすれば,

また|enxn|=|(enー1)ー(xnー1)|+|1ー1|だから

となる。逆にµP)を実現するyiたちをとればyn+1∈{0,1,2}であることは明らかだから,yn+1=1の場合はxiyii=1,……,nー1),xnyn+1とおき,yn+1∈{0,2}の場合はxiyii=1,……,n)とおく。前者の場合は

|(en1)yn|+|1yn+1|=|enyn+1)|+0=|enxn

より,後者の場合は

|(en−1)yn|+|1−yn+1|=|en1−xn|+1≧|enxn

よりµP)≦µP)だ。

 さて,この指標を導入して証明したいことは,多角形Pが2つの多角形QRに分割されている場合にµQ)+µR)≧µP)であるということと,どんな3角形Tの面積AT)もAT)≧(√3/4)µT)であるということだ。そうすると,奇数本の単位長の辺からなる多角形Pがどのようにたたまれていようと,そのたたまれた図形を3角形T1,……,Tkに分割して考えることで,

が示され,µP)=1だったから,P のたたみ方いかんにかかわらずAP)は正三角形の面積√3/4以上となる。

 µQ)+µR)≧µP)の証明から考えよう。n角形Pが長さdの対角線によってQRに分割されているとする。Qを構成する辺をe1,……,ekdRを構成する辺をek+1,……,endとする。yydy+1なる整数とすると|d−y|+|d−(y+1)|=1である。また,µP)が整数x1,……,xnによって実現されている,すなわち

とする。は奇数だから,の奇偶は異なる。よって

が奇数になると仮定しても一般性を失わない。このとき

も奇数になる。すると

である。

 次はAT)≧(√3/4)µT)だ。3角形Tの辺をe1ae2be3cとし,abc≦1の場合をまず考えよう。µT)を定める上でのx1x2x3は,一般性を失わず1,0,0か1,1,1と仮定してよい。前者の場合,

µT)=1−{(1−a)+bc}=abc

だが,abcは3角形を作っていてa≦b+cだから,(√3/4)µT)≦0≦AT)である。後者の場合

µT)=abc−2

である。3角形の周長dabcが2未満の場合は(√3/4)µT)<0≦AT)となるので,d≧2と仮定しよう。周長dabcが一定の場合,3角形は細長くなるほど面積が小さいと考えられる。実際AT)はab=1,cdー2のとき最小になることを示そう。ヘロンの公式によれば,p=(abc)/2=d/2とおいたとき

である。2乗して少し整理すると

となる。よってaも固定したとき,bcdaも固定されるから,この値はbとcの差が大きいほど小さくなる。従って,bcda≧1かつbc≦1だから,b=1かc=1のとき最小になる。そこでb=1として,同じ議論を繰り返せば,ab=1,cd−2のときにAT)は最小値

をとることが示される。しかし,1≦p≦3/2だからp(2−p)≧3/4であり,

となる。

 最後に一般の3角形Tの場合を証明しよう。Tの3辺をabcとして,abcとする。に関する帰納法で証明しよう(c以上の最小の整数)。=1の場合は上で示したので≧2すなわちc>1とする。の場合,Tを4角形Tと考え,下図左のように2つの3角形T1T2とに分解すると,帰納法の仮定により,

AT1)≧(√3/4)µT1

AT2)≧(√3/4)µT2

だから,

AT)=AT1)+AT2)≧(√3/4)(µT1)+µT2))≧(√3/4)µT)=(√3/4)µT

となる。の場合も,下図右のようにさらに細かく分解していくと帰納法の仮定が使えるようになり,あとは同様である。

問題はこちらです