パズルの国のアリス

トランプ王国の故宮を復元せよ(解答)

 最初の正方形を復元する問題だが,このパズル自体は結構古いものだ。筆者が問題を最初に知ったのは,中村義作氏が書いた『選びに選んだスーパーパズル──世界の名作・難問100』(講談社)の第1問として選ばれていたからだ。この本は「選びに選んだ」というだけあって良問の宝庫なのだが,出版が1986年で今日では見かけない……と思っていたら,つい最近出版された同社のブルーバックスシリーズの『世界の名作 数理パズル100』がその復刊だと知った。このような良書がまた読めるようになるのは大歓迎である。中村氏によれば,1926年のデュードニー(H. E. Dudeney)の「Modern Puzzles」がさらなる原典だそうだが,この書物となると残念ながらさらに入手が難しい。

 良問とはいえ,このような古いパズルを題材としたのは,忘れ去られるのが惜しいような名作だと思っていたこともあるが,デュードニーが与えたものとは全く異なる別解があることをつい最近知ったからだ。まずはデュードニーの解を紹介しよう。次の図をご覧いただくのが早いだろう。

 まず線分DBを引く。次にAからDBに垂線を下ろし,それを延長して,DB=AC’となるように垂線上に点C’をとる。すると,このC’とCを結ぶ直線が復元したい正方形の1辺を構成するのだ。こうなるとあとは簡単だ。Aを通りCC’に平行な直線がもう1辺となり,Bを通りCC’と直交する直線,Dを通りCC’と直交する直線が残りの2辺となる。

 この作図法を自分で見いだすのは相当の難問と思う。しかし,良問の常として,いったん解が与えられれば,それが解となっていることを納得するのはさほど難しいことでもないから,この作図が解となることの証明は読者にお任せしよう。

 さて,私事になり恐縮だが,筆者はここ10年くらい,筑波大学付属駒場中・高等学校(通称は筑駒)の数学ゼミナールにおいて助言を行うという役割を務めている。同校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校なので,研究授業の一環として,先日中学3年生の幾何の授業を公開した。

 実はそのとき扱った問題が上記の作図問題だ。このような難問を中学生に与えるということも驚きなのだが,さらに驚いたのは,このときの模範解として先生方が用意したのが,次のような全くの別解だったことだ。

 まず,ADとBCを直径とする円をそれぞれ描く。次に,円弧ADの中点E,円弧BCの中点Fをそれぞれ正方形の内側にとり,直線EFが円弧AD,BCと再度交わる点をG,Hとする。あとは,直線GD,GA,HB,HCを引けばそれが求める正方形の4辺となる。この解もことさらに解説は要らないと思うが,ひとことヒントを述べるなら,弧AEが円周の1/4なのでそこに立つ円周角AGEが45°になることがポイントだ。円周角に関する知識が必要だが,先に述べた解と比べてもエレガントさにおいて遜色がないと思う。

 先に述べた研究授業では,生徒たちはこの2つの解に非常に近いところまで迫っていたし,さらに第3,第4の別解までも導きそうな勢いだった。このように考え方の異なる複数の解を楽しみ,ましてそこに生徒たちを導くことは教育者としての醍醐味に違いない。

 次の最大の正三角形を問う問題も中村氏の本にあり,その第93問である。実は,こちらは先の問題の2番目の解を知っていると解きやすくなると思われる。これも図解するのが早いだろう。

 A,B,Cを与えられた玄関の位置とする。図のように線分AB,BC,CAに対して,それらを弦として中心角120°でのぞむような円周を描く。この3つの円周は1点で交わるのでそれをMとする(ちなみに,このMはフェルマー点と呼ばれ,線分AM,BM,CMが互いに120°で交わる。またシュタイナー点とも呼ばれAM+BM+CMが最小値をとる。つまり,他の任意の点をPとするときAM+BM+CM≦AP+BP+CPが成り立つ)。各円にMを通る直径を引き,Mの対蹠点をD,E,Fとすると,DEFが題意を満たす面積最大の正三角形となる。例えば角Dが60°となるのは弧BCが円周の1/3だからであり,他の角も同様だ。またEFがAを通ることと面積が最大となることはAMがEA,AFと直交することからわかるが,細かい議論は読者に補っていただこう。

 このコラムの大先輩にあたる一松信先生から,各円の中心を結ぶ三角形 PQRは正三角形になり,その事実はナポレオンの定理として知られていることをご指摘いただいた。さらに先生は,A,B, Cを通る 3 本の直線で,それぞれ QR,RP,PQに平行なものを引くことで(つまり PQRを 2倍に相似拡大する形で),この問題を解いておられた。これも素晴らしい別解であり,P,Q,Rを作図することが避けられないとすれば,Mを作図しなくて済む分,最も簡潔な解といえるかもしれない。

 最後の問題も筑駒校の先生の作品である。同校では先生方が作られた問題を開発教材集として冊子にまとめておられる。これも良問の宝庫なので,その中からパズルとしても面白い面積がらみの問題を1つ紹介させていただいた。前問もそうだが,この種の問題のポイントは,面積が最大とか最小とかいうのがどういうことなのかを,別の観点から見ることができるかということにある。前問では面積を最大化する鍵はAMとEFを直交させることにあったが,この最後の問題の場合,BP=CPとなることが面積最小のための条件だと気づけば,作図法は自ずから明らかだろう。

 例えば,下図のようにAPをP方向に延長してAP=PQなる点Qを描く。あとはABQCが平行四辺形になるようにB,Cをとれば終了である。作図法が与えられてみれば,このようなB,Cが最小の面積を与えるということは,ほとんど自明である。

 下図のように少しずらしてB’,C’をとってみると,三角形CC’Pと三角形BRPとが合同なことから,三角形ABCと四角形ABRC’は同面積であることがわかり,三角形AB’C’はそれより大きい。

 なお,一松先生からは,この問題にも上と少しだけ異なる別解をいただいた。

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