パズルの国のアリス

ヤマネ,また姪たちの信頼を失う(解答)

 この奇術の種は置換の奇偶性を利用することにある。熱心な読者は2010年8月号の「チームで参加! 何でもオリンピック」(『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』第16話)とその解答を覚えておられるだろうか? そこでも置換の奇偶性を利用した。設定された状況も似ているし,実は,この奇術の問題はこの2010年8月号の問題の焼き直しにすぎないともいえる。ただ,得ようとしている結果や目的が違っているので,すぐには結びつかないかもしれない。

 さて,ヤマネの姪たちの戦略だが,考えやすくするために,最初姪たちはサンデイからサタデイまで名前の順に並んでいるものとし,ここではサンデイの立場になって考えてみよう。サンデイは,マンデイからサタデイまでの全員の数値を知っているので,その6匹を数値順に並べ替えるとどういう順になるかはわかる。わからないのはそのときの自分の位置である。ところが,この奇術を成功させるためには,自分の位置についての完全な情報は必要なく,青か赤かだけを知ればよいことがポイントだ。最初に奇術を設計した段階では,青は1,3,5,7番目,赤は2,4,6番目だ。ということは,サンデイは今先頭にいるのだから,今の位置から偶数回ずれると青の位置になり,奇数回ずれると赤の位置になる。

 ここまで来れば,もう奇術のやり方も見えてくるだろう。サンデイはまず,頭の中で2匹の位置の交換(互換)を繰り返すことで,自分を除く全員を数値順に並べ替えてみて,そのときに何回互換が必要だったかを数える……といっても必要なのは,回数そのものではなく,それが奇数か偶数かということだけだから,互換を行うたびに指を折る/伸ばすを繰り返しているだけでもよい。あとは自分を含めた全体を並べ替えるのに偶数回の互換が必要なのかあるいは奇数回の互換が必要なのかがわかれば,自分が今いる位置から偶数回ずれるか奇数回ずれるかがわかる。

 これはマンデイからサタデイについても同様だ。それぞれが,自分を除く全員を並べ替えるのに何回の互換が必要かを数え,全体を並べ替えるのに必要な互換の数の奇偶性を知れば,自分が現在の位置から偶数回ずれるか奇数回ずれるかがわかる。具体的にいうと,自分以外の全員を並べ替えるのに必要な互換の数と全体を並べ替えるのに必要な互換の数の奇偶性が一致すれば自分の最初の位置と同じ色の旗,不一致なら反対の色の旗を挙げればよい。

 というわけで,ヤマネから送ってもらう手はずだった情報は,全体を並べ替えるのに必要な互換の数の奇偶性で,これは,客席から全員の帽子を見ているヤマネにはわかるはずだし,たとえば,ヤマネが客席で腕組みをしていれば奇数,腕を垂らしていれば偶数という程度の合図で簡単に伝えられる内容だ。

 イラストに描かれた数値を実例としてやってみよう。サンデイからサタデイまでが左から並び,その帽子には順に1/3,√3,−1.5,10000,10/6,−100,3.14が書かれていたとする。これを昇順に並べ替えると−100,−1.5,1/3,10/6(≈1.67),√3(≈1.73),3.14,10000となるが,それには,たとえば1/3↔−100,√3↔−1.5,√3↔1/3,10000↔10/6,10000↔√3,10000↔3.14のように順次交換すればよいが,これだと合計6回だから偶数回である。他の手順で並べ替えてもよいが,いつも偶数回になるのがミソだ。だからヤマネからの合図は「偶数」になる。

 一方,サンデイは,自分の番号を除く√3,−1.5,10000,10/6,−100,3.14を並べ替えて,−100,−1.5,10/6,√3,3.14,10000にするが,それに必要な互換の数も偶数でありヤマネからの合図と一致するので,自分の初期位置と同じ色,すなわち青の旗を挙げる。他の姉妹も同様にすれば,数値と旗の色の関係は1/3(青),√3(青),−1.5(赤),10000(青),10/6(赤),−100(青),3.14(赤)ということになり,昇順に並べ替えると「青–赤–青–赤–青–赤–青」の順に並ぶというわけだ。

 この奇術が面白いのは,ヤマネからの情報が当てにならず奇偶性が反対になっていても,忠実に実行すれば色全体が反転するだけで交互になることは保証されていることだ。したがって失敗しても観客には気づかれにくい。

 余談だが,どうもこの奇術には,グリフォンの深謀遠慮の影が色濃く感じられないでもない。というのは,これまでの他のエピソードでも述べたように,ヤマネの記憶力が当てにならないことをグリフォンはよく知っているはずだ。だから,ヤマネからの合図がでたらめになっても機能するように奇術を設計したのかもしれない。もっとも,それならはじめからヤマネなどは参加させず,自分を除く全員を並べるのに必要な互換の数が偶数だったら初期位置と同じ色の旗,奇数だったら反対の色の旗を挙げるということに決めておくだけで,奇術としては機能するのだが……。

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