パズルの国のアリス

いつ賭ける? いくら賭ける? (解答)

 最初の問題だが,これは通常の非復元抽出と似ている。それだったら,2016年6月号への解答で触れたポリアの壺で,赤球と白球とがともに5個ずつで取り出した球を戻さない場合と同じだから,そこで述べたように何回目に勝負しようとアリスの勝率は5/(5+5)=1/2 だ。微妙に違うような気がするのは,アリスは何回目に勝負するかを事前に決めるのではなく,何枚かをめくった結果を見てから決めてよいことだ。確かにアリスの賭け方の自由度が上がる分だけ,勝率が上がってもよい。

 ところが,アリスがどんな戦略を用いても,勝率が1/2より大きくなることはないというのがこの問題への答えだ。まだ裏向きのまま残っているカードの枚数に関する数学的帰納法によりこの事実を証明することも難しくはないが,このコラムの種本に使っている『とっておきの数学パズル』(日本評論社)にある証明が極めてエレガントなのでそれを紹介しよう。

 アリスが用いる戦略をSとしよう。さて,その戦略Sをそのままで次のように少し変形したゲームに採用することにする。勝負のやり方はまったく同じだが,当てるのは,次のカードではなく一番下のカードの色で,それが赤ならばアリスの勝ち,青ならばマハラジャの勝ちというものだ。アリスの戦略Sがどういうものであろうと,この変形したゲームに適用した場合と,元のゲームに適用した場合とで,勝率がまったく変わらないことがおわかりだろうか。戦略Sを用いた結果,アリスがいつ「ストップ」をかけることになろうと,その時点で裏向きのまま残っている赤カードの枚数をr,青カードの枚数をbとすると,次のカードが赤である確率はr/(rb)だ。では一番下のカードが赤である確率はどうかというと,これも言うまでもなくr/(rb)だからだ。

 したがって,アリスの戦略をこの2種類のゲームに用いた結果の勝率は等しい。ところで,そもそも2番目の変形ゲームでのアリスの勝率はどうかというと,戦略Sがどういうものであろうと,勝負を決めるのは一番下のカードの色だから,それが赤である確率,つまり5/(5+5)=1/2だ。というわけで,いつ勝負するかを決められるというアリスに与えられた自由度は,なんら勝利に貢献しないことがわかる。

 次の問題は,アリスが最初に考えた戦略に従ったあげく最後の1枚になり,負けるとわかっているのにいやいやそれで勝負しなければならない場合の確率だが,実はこれは,2016年2月号への解答で述べたカタラン数の復習にすぎない。カードの赤青の並び順は10C5通りある。そのうち,上から順にめくっていったとき,途中での青の枚数が赤を超えることがない並び方の総数はカタラン数Cat(5)というもので与えられる。詳しくは2月号への解答をご覧いただきたいが,そこで述べたようにCat(5)=10C5/6だから,求める確率はCat(5)/10C5=1/6である。前の問題と併せて考えると,途中で「ストップ」をかけられればアリスが若干有利なはずなのだが,この分があるので,結局,その有利さは相殺されて勝率は1/2になってしまうということだ。

 最後の問題のゲームがアリスに有利だということは誰でも認めるであろう。たとえばアリスは片方の色のカードが全部出尽くして,残りが1色になるまでは何も賭けずにいて,そうなってからは毎回全チップを残った1色に賭ければいい。少なくとも最後の1回の賭けには勝つことができるし,運よく早めに片方の色のカードが出尽くせばもっと儲けられる。仮に最初の5枚がすべて赤だったら,あとは青に賭け続けることで元手を25=32倍に増やすことができる。まず,こういう賭け方をした場合の期待値を求めてみよう。ある時点で赤カードが全部出尽くして青カードがn枚残ったとする。そのときのカードの積まれ方は,下から青がn枚,その上に赤,さらにその上のカード9−n枚はどういう順でもよいが赤が4枚含まれていることになる。したがって,そのようなカードの積み方の総数は9nC4であり,そのときのアリスの収益は2nである。また青が最後に残るカードの積み方の総数は明らかに9C4だから,この場合のアリスの収益の期待値はnを1から5まで変化させて

である。最後のカードが赤の場合も同じだ。実は,これがグリフォンの言葉の根拠で,このゲームでアリスの収益は,普通,元手の4.06倍くらいが見込まれるのだ。いま考えた賭け方は,決して元手が減ることがないという意味で,安全な賭け方ではあるが,もっと乱暴な賭け方をしても,期待値としては同じ収益が見込める。極端なのは,最初にカードの順番を完全に予測してしまい,いつも全額をその予測通りに賭けるという方法だ。たとえば最初5回は青に全チップを賭け,残り5回は赤に全部を賭けるというのでもよい。こんな賭け方をすると,10回とも当たる確率は1/10C5=1/252で,それ以外の場合は元手を完全にすってしまうことになるが,当たったときの収益が元手の210=1024倍にもなるから,期待値は1024/252 ≃4.06で先の安全な方法と変わらないのだ。

 だが,このどちらにしても,確実に4倍以上の収益をあげる方法ではない。先に述べた安全な方法では,運がよいと32倍になるが,126回中8C4=70回くらいは収益が2倍で我慢しなければならない。

 グリフォンの言うように,確実にこの期待値通りの収益を実現する方法があるのだろうか。実は,意外に簡単なやり方でそれが可能なのだ。それは,部下がたくさんいると考え,その部下たちに,それぞれ先の1点賭けをさせることだ。赤カード5枚と青カード5枚の並べ方は10C5=252通りあるから,まず,銀貨を252枚のチップに交換してもらう。そして,252人の部下にチップを1枚ずつ渡して,それぞれのパターンに1点賭けをさせる。その結果,部下のうち251人はスッテンテンになるが,1人はチップを1024枚に増やしているはずだ。

 具体的に少しやってみよう。最初のカードは,赤のパターンが9C4=126通り,青のパターンも126通りあるから,赤に賭ける部下が126人,青に賭ける部下が126人である。その結果,チップを失う部下と倍にする部下が同数いるので勝負の結果の全体枚数は変わらない。つまり何も賭けなかったのと同じなので最初は賭けないでおこう。

 最初に赤が出たとしよう。126通りのうち,次のカードも赤のパターンは8C3=56通りあり,次が青のパターンは8C4=70 通りある。したがって,次には56人の部下が赤に2枚賭け,70人の部下が青に2枚賭けることになる。この結果,青が出ればチップは28枚増え,赤が出れば28枚減ることになるので,同じ結果をもたらすには青に28枚を賭ければよい。以下,同様に賭けを繰り返す。一般には,n枚がめくられたあと,赤がr枚,青がb枚裏向きで残っていた場合,rbなら(rb1Cbrb1Cr)2n枚を赤に賭けることになる。rbなら,何も賭けなくてよいし,rbなら同様の枚数を青に賭ける。この結果が,たくさんの部下を使って各パターンにいつも全額を賭けていくのと同じになることを読者は確かめられたい。こうして252枚のチップはゲームの終わりには,いつでも1024枚に変わり,アリスに4倍強の収益をもたらす。

 参考までに,最初に252枚のチップを持って,この賭け方でゲームを進めると,所持チップの枚数がどのように変化していくかを下図に示す。右向きの矢印は赤カードが出たときの変化を示し,下向きの矢印は青カードが出たときの変化を示す。各状態でどちらに何枚を賭けるかは,枚数の変化を見ればわかるだろう。左上の252 枚の状態から始めると,カードの出方がどうであろうと,右下の1024 枚の状態に達してゲームは終了する。

 最後に,チップとの交換レートであるが,銀貨1枚をチップ252枚と交換し,上のように賭ければよいが,(上の図からもわかるように)少し考えるとその場合に賭ける枚数がいつも4 の倍数になることがわかる。だから,交換レートを1/4の63枚にしてもこの賭け方は実現できる。

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