パズルの国のアリス

ビリヤード名人対グリフォン(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 鏡の国をビリヤードの名人が訪問中で,簡単なショーをやるという。2014年11月号「不思議の国のビリヤード」で,ハートの女王から公爵夫人にビリヤードへの招待が来て,アリスがそれに同行したときの話をした。鏡の国でもビリヤードは人気のある娯楽だが,不思議の国とは違い,フラミンゴのキューでハリネズミのボールを突くということはない。普通のボールとキューを使うのだが,違うのは,ビリヤード台が精確この上ない長方形をしており,ボールも完全な球形をしているということだ。どちらも白騎士が丹精を込めて製作したもので,実は,今回ビリヤードの名人が訪問しているのも,そのような完璧な台とボールが鏡の国にあると聞いて,自分の腕の見せ所を求めてのことだった。噂を聞いて,アリスはもちろん,不思議の国からもグリフォンやチェシャ猫が見学に来ていた。

 ホストの白の王様が,赤と白のビリヤードボールを1つずつ取り出した。さらに観衆から協力者を募ると,チェシャ猫の首から上だけがフワッと出現し「面白そうだから,俺が手伝ってやるぜ」。

 王は度肝を抜かれたようだが,咳払いでごまかして,「よろしい,ではビリヤード台の好きな位置にこの2個のボールを置いてもらおう」。

 すると次にはチェシャ猫の右手と左手が現れ赤白のボールを1つずつつかんで台の上の離れた場所に置く。どうやら,台やボールの完璧さのデモンストレーションと名人の腕前の披露を兼ねて,一方のボールを突いて何回かのクッションの後で他方に当てさせようという趣向らしい。

  それだけではつまらないと思ったのか,今度は正8面体サイコロをチェシャ猫に振るように言う。チェシャ猫は「面倒くさいな」と言いながらも,新たに登場させた尻尾で器用にサイコロを振ると7の目が出た。白の王が「これでよろしいかな」というふうに目で名人に合図すると,名人はうなずき大袈裟な素振りで白い手球を狙ってキューを構えた。一見まるで見当違いの方に球を突きだすと,白いボールはクッションに当たって台上を行ったり来たりしながら,ちょうど7回クッションに当たったあと,赤い的球に吸い込まれるようにぶつかっていった。観客からはやんやの喝采である。

 サイコロの目(クッションに当たる回数)が何であっても,こういうことができるのかと聞かれた名人は,「さよう。白騎士殿の作られた台とボールが完璧で,クッションするときの入射角と反射角が等しく,ボールのスピードはほとんど落ちませんからな。うまく狙いさえすれば,まず失敗はありません。ああ,ボールに大きさがあるので,あるコースで狙ったときに的球に近づきすぎてどうしても指定回数より前にぶつかってしまうことがありますね。……そういう場合でも,2つのボールをもっと小さいものに替えてもらえば大丈夫ですが」。

 この辺で,読者にはウォーミングアップをしていただこう。バカにするなと怒られそうであるが,まず1クッションで的球に手球を当てたい場合に,どこを狙えばよいかについて考えていただきたい。2つのボールが特殊な位置関係でない限り,通常1クッションで手球を的球に当てるコース(方角)の選び方は4通りありうる。一般にnクッションで当てたい場合,そのコースの選び方は最大で何通りまでありうるだろうか。

 先の名人の言葉を聞いていたグリフォンが聞いた。「すると,2つのボールが十分に小さい場合,同じように小さいボールがいくつか障害物として台上に置いてあっても,それを避けて的球に当てることができますか?」

 「その障害物ボールも十分小さくしてよいなら,おそらく問題なく可能と思います」

 「では,台上のこれらの点に障害物を置くことにしたいのですが,あなたならこれらを避けて的球に当てることが可能ですね」と言って,グリフォンは10数個の点を示した。驚いたことに,どんなに手球,的球,障害物を小さくしようとどんなにクッション回数を増やそうと,障害物を避けて的に当てることは名人にもできなかったのだが,グリフォンはどうやってこの障害物位置を見つけたのだろうか? これが最後の問題だ。このビリヤード名人は,寸分違わず狙った位置を目がけてボールを突くことはできるが,ボールに回転を与えコースを曲げるなどの特殊ショットは得意でない。

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