パズルの国のアリス

毎日意見を変えるダイヤの兵士たち(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 そのほうがわかりやすそうだから,例を挙げて説明しよう。例えば,ダイヤの兵士たちの友達関係は下の図αのようだったとしよう。グラフの各点はダイヤの兵士たちを表し,2つの点の間の線分がよく話し合う友達関係を表すとする当面,線分の上の矢印は無視していただきたい。兵士たちの名前(エースは1と表示した)の右の括弧の中にその時の兵士が最初にA案とB案のどちらを支持したかを示した。例えば,2と6は,よく話をする関係で2人とも最初はB案の支持者だったというわけだ。

 ダイヤの女王の言葉通りなら,翌日になると,兵士たちは図β のように意見を変える。例えば,6は友達の1と2と7のうち,過半数の2人がA派なのでA派になり,10はただ1人の友達の5がB派なのでB派のままである。こうして,兵士たちは毎日のように意見を変え,その変遷はαβγδとなるが,実はβδはまったく同じだから,この後はγβ(=δ)の状態を1日おきに繰り返すことになり,もちろんその周期は2だ。

 変遷は決定論的だから,問題で述べたように状態がある周期で繰り返すようになることは間違いないのだが,実はこの周期は1か2しかありえないのである。そのことを示すのはやや難しいが,そのために線分につけた矢印が役に立つ。例えば図α の7から2へ向かう矢印だが,これは初日に7がA派だったにもかかわらず,その友達の2が2日目にA派にならないことを意味する。つまり7の影響が2には及ばないということだ。互いに影響し合えず1つの線分に2つ矢印がつくこともある。こうして図α には全部で7つの矢印がある。他の図の矢印も同様で,その日の意見分布が翌日の意見分布にどう影響したかを示している。

 さて,注目すべきはこの矢印の個数である。ある日に例えばエースがA案支持であり,エースからちょうどm個の矢印が出ているとしよう。つまり,翌日は,エースの友達のうちm人がB案支持で,残りの友達はA案支持だということだ。もし,エースが翌々日にもA案支持だったとすれば,B案支持の友達たちの翌日の意見はエースに影響を与えなかったわけだから,翌日にはエースへ向かう矢印がちょうどm個出ていることになる。逆に,エースが翌々日にB案支持に変わったとすれば,エースの友達の範囲ではB案派が翌日は過半数だったわけであり,翌日のエースへ向かう矢印はm個未満ということになる。

いま述べた矢印の数に関する観測は,エースがB案支持であっても成り立つし,またエース以外のどの兵士をとっても成り立つことに注意していただきたい。したがって,どの兵士をとっても,ある日にその兵士から出ている矢印の数が,翌日にその兵士へ向かう矢印の数より少なくなることはない。ところが,どの矢印も出入り口は1つずつしかないのだから,このことは図全体で,ある日の矢印の総数が翌日の矢印の総数より少なくなることがないことを意味している。よって,日がたつにつれて,矢印の数は次第に減っていき,ある日以降は一定になる。こうなってからは,すべての矢印は毎日向きを反転し,線分の両端の兵士の意見を考えると,(矢印のあるなしにかかわらず)1日おき同じになることがわかる。ある日の自分の意見は友達を介して2日後に自分に返ってくると考えれば,これは意外な結論ではないが,厳密に証明するのは上記のようにいささか厄介で工夫を要するようだ。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

問題はこちらです