パズルの国のアリス

距離100メートル隔たった兵士たち(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 女王に「平面で考えよ」と指定されているので駄目だが,次元を上げてもよければ,すべてのペアの距離が100mになるように兵士を配置することが可能だ。例えば10人の兵士ならば9次元空間に配置することで,全部で(10×9)/2=45組あるペアのすべての距離を100mにできる。ということは,(可能性としては)n人の兵士で距離100mのペアをnn−1)/2組作り出せるかもしれない。問題は,2次元平面に配置する場合に,この数がどこまで減ってしまうかを定めることだ。

 実は,n≧3の場合,女王の条件を守ったn人の平面配置で距離100mのペアをn組作り出すことは容易だ。例えば,nが奇数の場合,正n角形の頂点をなすように各兵士を配置し,一番長い対角線を100mにしておけばよい。nが偶数の場合,正n角形の頂点に配置するというのはうまくいかないが,n−1は奇数だから,n−1人を先のように正n−1角形の頂点上に配置しておいて,最後の1人を一番離れた兵士からの距離が100mになるように配置すればよい。

 この構成は,もっと一般的に議論することができる。つまり,n人の平面配置で距離100mのペアがn組できているとき,もう1人増やすことで,そのようなペアをn+1組に増やすことができる。これは簡単で,既に配置されているn人のうち誰でも1人を選び,そこからは100mで,他のn−1人からは100mを超えない位置に,新たに増やす1人を配置すればよい。厳密に言えば,そのような位置が存在することを証明する必要があるが,他のn−1人は相互に最大でも100mしか離れていないから,簡単にそのような位置は見つかる。

 だが,逆にどの2人もせいぜい100mしか離れていないということが,1人増やして距離100mのペアを新たに2組以上作り出すことを不可能にしているのだ。結論を述べると,どの2人もせいぜい100mしか離れていないようにn人を平面上に配する場合,ちょうど100m離れているペアは,最大でn組しか存在できない。したがって,スペードの兵士10人ではそのようなペアは10組しか作れない。

 そのことを証明するのに,まず,平面上に4点ABCDがあり,ABCDの距離が100mとしよう。このとき他の組ACADBCBDがいずれも100m以下ならば線分ABCDは交点を持つことに注意したい。この事実は,直感的に明らかな気もするが,あえて証明するなら例えば次のような論法で可能だ。点CDも,ABから100m以内の距離にあるので,ABを中心とする2つの円の内側,つまり右上の図の青い領域(境界を含む)内にある。ところがCDの距離も100mだから,CDの両方が線分ABに対して同じ側にあるわけにはいかず,図のように互いに反対側にあるか,もしくはCDの一方がABに一致していなければならない。いずれにせよCDABは交点を持つ。

 さて,この事実を踏まえると,n人の平面配置では距離100mのペアがn組しかできないことが次のように証明される。今,あるnについては,n人で距離100mのペアがn+1組以上できたとし,そのようなnの最小値を考える。距離100mのペアはn+1組以上あり,点はn個しかないのだから,3組以上に含まれる点が存在する。その点をPとし,Pから100m離れた点をABCとする。ABC同士も最大100mしか離れることができないのだから,線分PAPBPCのなす角度はせいぜい60°だ。そして,そのうちの1本(例えばPB)は他の2本の間にあるということになる。このときBは,P以外のどの点とも距離で100m離れることができない。なぜなら,BQが100mだとすると,先の事実より,BQPAPCの両方と交点を持たねばならないが,これは不可能だからだ。

 したがって,いま考えている配置から点Bを除くと,点はn−1個になるが,距離100mのペアはPBが失われるのみでn組以上が残る。これは,nを,n+1組以上のペアができる最小値としたことに矛盾する。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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