パズルの国のアリス

双子に負けるな! 新コーカスレース(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 最初の問題は易しすぎたかもしれない。おそらく一番納得しやすいのは,翌日にも,初日にネズミが登ったのと同じコースをまったく同じように,もう1匹のネズミが登ってくると考えることだろう。同じコースを来るのだから,2匹のネズミはどこかで出会うに違いない。その出会った時刻こそ問題の瞬間であり,同じ場所にいるのだから当然標高は同じである。

 やや大げさな道具立てを使って解くなら,この問題を中間値の定理の応用と考えることもできる。出発点と目的地の標高をaとbとし,初日と2日目にネズミのいる位置の標高を時刻tの関数h(t),g(t)とするなら,出発時刻t0においてh(t0)−g(t0)=a−bは負,到着時刻t1においてh(t1)−g(t1)=b−aは正である。h(t)−g(t)は連続だから,中間値の定理により,t0とt1の間のどこかの時刻tでh(t)−g(t)=0になる。すなわち,その時刻tにおいて標高h(t)とg(t)は等しい。

 この少々大げさすぎる道具立てに,先の議論より有用な点があるとすれば,2匹が辿ったコースが同じでなくとも,また出発点と目的地は,それぞれ標高さえ逆転していれば,同じ場所でなくとも機能するということぐらいだろうか。

 しかし,2つ目の問題を考えるには,ダムとディーが辿った道の出発点と目的地が同じであることは忘れて,その標高だけに着目したほうがよいかもしれない。最初にグリフォンが考えたように,2人のコースが単調な上りだけだったら,2人が常に同じ標高にいるように上っていくことができる。そのためには,特に連絡をとらなくとも,標高に関して同一のペースで上がるようにスピードを調整していけばよい。たとえば1時間につき標高にして100m登るという具合だ。緩やかな所では早足で,急な所ではゆっくりと登るということになるが,スピードに制限がないのだから調整は簡単だ。実は,コースに平坦な部分があっても,問題ない。たとえばダムのコースの一部に平坦な部分があったとすると,ダムがそこを歩いている間,標高は変化しないのだから,ディーはただ休んでいればよい。

 従って,2人のコースには平坦な部分がないとしてもかまわないし,上る場合も下る場合も標高は同じペースで変化するとしてもよい。すると,2人のコースは,時間を横軸に標高を縦軸にとると,傾き±1の折れ線だけで構成されるグラフとして表現できる。たとえば,下図左のグラフは標高4の地点まで上がってからいったん下り,標高1の地点まで下りたあと,また上がり始めて目的地まで行くコースを表現している。これをダムのコースとしよう。また,ディーのコースは単調に上るだけとしよう。そういうコースをグラフに表すと下図右のようになる。

 一方のコースがこのように単調であれば,他方と標高を合わせるのは容易だ。たとえば,上の2つのコースの場合,最初,ディーは,ダムに合わせて,標高4の地点まで上っていき,ダムが下り始めたら,それに合わせて来た道を戻り,ダムが標高1の地点に来て再び上り始めたら,またゴールを目指して上っていけばよい。

 2つのコースともにアップダウンがある場合でも原則は同じで,一方が下りにさしかかったら,他方は来た道を逆行して常に標高を合わせておけばよい。問題は,そういうことを繰り返していて,果たして2人ともゴールに着けるのかという点だ。それを考えるのに,例として,ダムとディーのコースが下図の左と右のグラフのようなものだったとしよう。

 ここで,ダムの道程を横軸,ディーの道程を縦軸にとり,2人が同じ標高にいる点をプロットしたグラフを考えると,下図のようになる。たとえば標高3の点を見るとダムの道程ではa1,a2,a3,ディーの道程ではb1,b2,b3の点にあたる。そこで,座標(ai,bj)(i∈{1,2,3},j∈{1,2,3})をプロットすると下図の青い点のようになる。さらに標高をさまざまに変えながら,次々にプロットしていくと下図に実線で描かれたようなグラフになる。

 さて,このグラフを見ているといろいろな特徴に気づく。2つのコースにある同じ標高の点がどちらのコースでも峠や谷になっていないならば,これらの点対に該当する部分はこのグラフでも真っすぐな(傾きが±1の)直線部分になり,そこで折れ曲がったりしない。一方のコースのみで峠または谷になっている場合に,このグラフは,その点対の箇所で直角に折れ曲がる。たとえば,標高5の点にはa4,b4があるが,b4は峠なので,(a4,b4)でグラフは屈折している。

 今,例に挙げた2つのコースの場合にはそういう点はないが,標高の同じ点が一方のコースで峠,他方のコースで谷になっていると,その近傍にはほかに標高の等しい対はないので,その点対はグラフ上の孤立点を形成する。また,標高の同じ点が両コースでともに峠だったり,谷だったりすると,その点対はグラフ上では十字路の交差点を形成する。

 最後に,左下隅の点は両コースの出発点を表し,右上隅の点は目標地点を表しているので,グラフは必ずそこを通る。

 以上からわかることは,左下隅と右上隅からはグラフの線が1本だけ出ているが,グラフ上の他の点から出ている線の数は0,2,4本だけだということである。従って,左下隅から出発し,同じ道を複数回通らないようにこのグラフを辿っていけば,途中で行き詰まることはないので,右上隅に必ず到達できる(しかも,2つのコースが標高の同じ峠や谷を持つことなどは現実にはほとんど起こらないから,上のグラフのように,普通は左下隅から右上隅までがただ一通りのグラフの道でつながっているということになる)。あとはただこのグラフ道の指示通りに進んでいけば,常に同じ標高にいるという状態を維持したまま,ゴールに到達することができる。

 ただ注意しておくと,その歩き方は,簡単でもなければ,無駄のないものでもない。そのような実例として,峠と谷を1つずつ持つだけの,次の2つのコースを考えてみよう。

 この2つのコースについて先のような同じ標高を持つ点のグラフを描くと,下図のようになる。このグラフによればAからHまでの経路を辿って,ゴールに着くことになるが,上の図ではそのAからHまでの点を2人のコース上に示した。ダムもディーも激しく行ったり来たりしている様子がわかるだろう。

 数学的に厳密に考えると,上記の解は,登山コースがどれも連続であり,有限個の単調な区間に分割できるものと暗黙に仮定しているが,普通このことは了解いただけると思う。

 また,参考までにグラフ上に孤立点や十字路が生ずる例を挙げておこう。下図の左と中央のような2つのコースの場合,グラフは右のようになる。標高3のa1とb1はともに峠だからグラフ上で点(a1,b1)は十字路の交差点となり,標高2のa2とb2は一方が峠で他方が谷だから点(a2,b2)は孤立点となる。a1とb1のようにともに峠になったりともに谷になったりしている地点では,進むべきか退くべきかをうまく判断しないと,遠回りしたり堂々巡りに陥ったりすることがあるので,先を見通して計画的に行動する必要がある。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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