パズルの国のアリス

白の騎士の無限階段(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 まず,どこに落としたボールも,無限に降下して奈落に消えてしまうか,「上がり」になるかのどちらかであることの証明だが,もしそうならないボールがあったとしたら,そのボールはある段を無限回訪問することになる。なぜなら,「上がり」にならない限りボールは無限に跳ね続けるので,どの段も訪問回数が有限回としたらボールは次第に下の段に移動していくしかないからだ。そこで,そのボールが無限回訪問する段で一番上のものに着目しよう。明らかに,その段のエネルギーレベルは,ボールの訪問を受けるたびに0→1→2→0→ 1→2→…と巡回する。ところが2から0に戻るとき,ボールはいつも1つ上の段に戻されるのだから,その1つ上の段も無限回訪問することになり,着目した段がそのような段の一番上だったことに矛盾する。

 最初の問題はこれで解決したが,以降の問題を考えるにはもう少し便利な道具があったほうがよいようだ。上からi段目のエネルギーレベルをEiとしよう。いささか天下り的だが,このときこのi段目が持つエネルギー量をEi /2i+1とし,装置全体が持つ総エネルギー量EE1/22E2/23E3/24+…を考える。今,ボールが第i段に落ちたとき,そのボールはエネルギー量B=1/2iを持つとすると,BEはボールの動きに伴って変化したりすることのない不変量となる。実際,i段目のエネルギーレベルが0か1であり,そこにボールが落ちたすると,次の瞬間,その段のエネルギー量は1/2i+1だけ上がる。一方,ボールは1段下がるので1/2i−1/2i+1=1/2i+1だけのエネルギーを失い,その増減は釣り合う。その段のエネルギーレベルが2であれば,段は2/2i+1=1/2iのエネルギーを失うが,ボールは逆に1/2i−1−1/2i=1/2iのエネルギーを得て,やはりエネルギーの得失は釣り合う。

 そこでEがどの範囲の数値になるか考えてみよう。明らかにエネルギーレベルが全段とも2になった場合,Eは最大になりそれは2/22+2/23+2/24+…=1である。逆にレベルが全段とも0になった場合,Eは最小でその値はもちろん0だ。こうしてEはいつでも0以上1以下の数値だとわかる。次にボールのエネルギーBだが,これは一番上の段にあるときが最大B=1/2で,下へ落ちていくとどんどん0に近づく。

 今,エネルギーEを持つ装置の第i段目にボールを落としたとすると全体のエネルギーはE+1/2iとなるが,これがボールの動きにかかわらず一定値を保つことがポイントだ。もし,ボールが奈落に落ちていったとしたら,ボールのエネルギーは0になるが,その分は装置の各段に分散して保たれ,装置全体のエネルギー量はE+1/2iに変わらねばならない。反対にボールが「上がり」になってしまったらどうだろうか? 上がったボールの持つエネルギーは1であり,それを失うので,装置全体のエネルギー量はE+1/2i−1に変わる。

 このことから,いちいち動きを追跡しなくとも,ボールの運命はある程度わかるのだ。E+1/2i>1の場合,最終的に装置が1を超えるエネルギーを持つことはできないので,ボールは「上がり」になるしかなく,あとにはエネルギーE+1/2i−1の装置が残される。E+1/2i<1の場合,装置が負のエネルギーを持つようになることもありえないので,ボールは奈落へと消え,あとにはエネルギーE+1/2iの装置が残される。E+1/2i=1の場合がやや微妙で,この場合はどちらもあり得るが,ボールが「上がり」になった場合は装置は全段ともレベル0になる。逆に奈落に落ちた場合,装置は全段レベル2になる。上は,個々の具体的なレベル設定の場合に,どこにボールを落とすとどういう風にボールが動き各段のレベルがどう移り変わっていくかについては答えていないが,少なくともボールの最終的な運命についてはこれでほとんどわかる。

 次にエネルギーEの装置に2つのボールをi段目とj段目に順次落とした場合を考えよう。この2つがともに「上がり」になるとしたらE+1/2i≧1,E+1/2i−1+1/2j≧1である。ところが,Eijに課された制限によりそういうことがあるとしたら,E=1,ij=1しかありえない。つまり,最初は全段レベル2で最上段に2個のボールを順次落とした場合だ。しかし,実際にやってみると,確かに最初のボールは最上段のレベルを0に下げて「上がり」になるが,2個目のボールは,昇り降りしつつも各段のレベルをすべて2に変えて奈落に消えてしまう。試してみられたい。こうして,2つのボールが続けて「上がり」になることがないことが示された。

 各段のエネルギーレベルがn段階ある場合も,今の議論を一般化すれば解析できる。n>3の場合,第i段のレベルをEiとするなら,その段の持つエネルギー量を(n−2)Ei /(n−1)i+1とし,第i段にあるボールのエネルギー量を1/(n−1)iとすることでうまくいき,やはり上と同じような議論が有効になる。ボールが「上がり」になる条件は同じで,装置の持つ総エネルギーをE,ボールの持つエネルギーをBとすると,0≦E≦1だからEBが1を超えるかどうかが鍵になる。また各ボールに持たせられるエネルギーは,最上段に落としたときが最大で1/(n−1)だから,一度ボールが「上がり」になったあと,次のn−2個のボールは奈落に落ちていかざるを得ない。

 最後にエネルギーレベルが2段階だけの場合に触れておこう。つまり,ボールは,レベル0の段に落ちたときはその段をレベル1に変え下へ行くが,レベル1の段に落ちたときはその段をレベル0に変え上に行く場合だ。この場合,上の議論をそのままでは一般化できない。しかし,各段のエネルギー量をその段のレベルEi(0か1)そのものとし,第i段に落としたボールのエネルギー量を−iとすることでうまく解析できる。この場合,レベル1の段が無限個あれば,装置の総エネルギーEE1E2E3+…は無限大になる。その場合はボールをどこに落とそうとそのボールは「上がり」になるが,i段目に落とした場合,上からi個のレベル1の段がエネルギーを失いレベル0となる。また,EE1E2E3+…が有限の場合,ボールのエネルギーをBとするとBEはボールの動きにかかわらず一定値を保つ。その結果,ボールを落とした段をiとすると,Eiならば,Eが無限大の場合と同様,ボールは「上がり」,上からi個のレベル1の段がエネルギーを失う。一方,Eiならば,ボールは装置の段のうちiE−1個をレベル0のまま残して,他をすべてレベル1に変えながら奈落へと消えていく。どうしてそうなるかは,読者への宿題としておくが,実際にいろいろと試してみると面白い。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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