パズルの国のアリス

マハラジャの新しい賭け遊び(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 最初の問題,すなわちマハラジャがサイコロを振って数値を決めている場合のアリスの戦略は明らかだろう。すなわち,見た数値が1〜3ならば,他方より小さいと予想し,逆に4〜6ならば,他方より大きいと予想すればよい。この戦略による勝率を計算してみよう。見たのが1ならば,他方は2〜6のどれかだから,勝率は1である。見たのが2ならば,他方は1か3〜6のどれかで,1以外は当たりだから勝率は4/5である。見たのが3ならば,他方は1〜2か4〜6のどれかで,1〜2以外は当たりだから勝率は3/5である。見たのが4,5,6ならば,予想は逆になり,それぞれ勝率は3/5,4/5,1である。見る数がどれになるかについては,その可能性が明らかに平等なので,結局,アリスの勝率は全体では,

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である。

 次の問題,つまり,マハラジャが[0,1]区間の一様乱数で数値を決めている場合も同様だ。見た数が1/2以下ならば他方より小さいと予想し,1/2より大きければ他方より大きいと予想すればよい。アリスの勝率が3/4になることは簡単な思考実験でもわかるだろうが,あえて積分で厳密に計算すれば

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である。

 実は,この結果は,紙片に書かれる2つの数値が独立で同一な確率分布を持つ場合に一般化される。アリスの戦略は,見た数値αまでの累積確率Pr(x<α)が1/2以下なら,他方より小さいと予想し,1/2より大きいならば他方より大きいと予想すればよい。分布が連続ならばアリスの勝率は3/4であり,連続でなくとも3/4以上にはなる。

 以上の結果は,確率分布が同一で,アリスにとって既知の場合である。3問目は,確率分布が未知の場合でもアリスは1/2より大きい勝率をおさめることができるかという問題だ。驚くべきことかもしれないが,この場合でも,勝率が1/2を超えることが期待できる戦略はある。やり方は簡単で,アリスは,ある数値を決めて,見た数がそれ未満だったら,他方のほうが大きいと予想し,それ以上ならば他方が小さいと予想すればよい。

 アリスが決めた基準となる数値をsとし,紙片に記された2つの数をabとしよう。もし,abがともにs未満だとすれば,アリスは,見たのがどちらであろうと他方のほうが大きいと予想することになる。どちらを見るかは半々だから,この場合,アリスの勝率は1/2になる。abがともにs以上の場合,アリスの予想は,「見たほうより他方のほうが小さい」になるが,この場合も同様に勝率は1/2になる。しかし,sabの間にある場合は様子が異なり,少し考えればわかるようにアリスの予想は当たる。要約すれば,この場合がある分だけ,賭けはアリスにとって有利になりうるのだ。

 2つの数値abの確率分布がわからないと,アリスには基準sを決める材料は何もない。sはでたらめに決めるしかなく,マハラジャがabをかなり狭い範囲から選んでいれば,sがその2つの数値の間に入ることはめったにないから,勝率が1/2をあまり大きく超えることは期待できない。それでも1/2より下がることはないので,アリスのとれる戦略としては最善かもしれない。それに,分布そのものがわからなくとも,累積確率Pr(x≦α)が1/2を超える点α(このような点は中央値と呼ばれる)がわかれば戦略は大変効果的であり,基準sにその中央値を選ぶことで3/4以上の勝率を上げることができる。また,マハラジャがabを決めるのに別々の確率分布を使っていれば,この戦略によるアリスの勝率は一般に上がると考えられる。

 最後の問題は,abの値を知っていれば,ハンプティがアリスにいじわるをすることができるだろうかというものだ。もちろん,いじわるといっても限界はある。ハンプティがどんな戦略をとっても,アリスは,自分の予想をコイン投げで決めることができるから,勝率が1/2を下回ることはない。しかし,ハンプティがうまい戦略を使えば,マハラジャが選ぶ2つの数値の分布が[0,1]閉区間の一様乱数だとわかっていても,アリスには勝率を1/2より少しも高くすることができないのだ。

 ハンプティの戦略は単純で,abのうち1/2に近いほうをアリスに見せるというものだ。ハンプティがアリスに見せたほうの数値を a として,a<1/2だったとしよう。すると,条件よりbab>1−a(>a)のどちらかだが,このどちらも等確率で生ずるので,abのどちらが大きいかも五分五分だ。a>1/2だった場合も同様で,bab<1−a(<a)のどちらかが等確率で生ずる。よってアリスがどんな方針で臨もうと,勝率は1/2になる。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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