パズルの国のアリス

距離を測る塗料(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 鏡の国の白騎士が,珍しくも大工を訪問し,相談している。どうやらまた奇妙なものを発明したらしく,その発明品の用途を考えているようだ。

 その発明品とは,一見ただの細長い棒である。黒地の一部が黄色に塗られているので踏み切りなどに見られる遮断機用ポールを小さくしたかのように見えなくもない。ところが白騎士によると,その黄色の塗料こそ,その発明の核心であり,別の仕掛けを施した針でその塗布面の 2カ所に触れると,針が触れた点の間の距離がディスプレイに表示されるという。

 「で,そんなもので,何ができるというのかね?」とそばにいたセイウチが聞く。

 「フーム,大工仕事もそうじゃが,普通,工作ということをする場合には,材料の長さを精確に測ることが重要じゃろう。わしのこの仕組みは,精度をいくらでも上げることができるのだ。そこでだ,これを使って工作に使える精度の高い物差しを作れるのではないかと思っての……」

 「確かに良いアイディアかもしれん」と大工。「では,試作品を作ってくれんか? 使ってみようじゃないか。さしあたり1mくらいまでを測れれば十分だ」。

 「うん,それで相談なのだが,実は,この特殊な塗料を塗りつけるのが一番面倒で高くつく。1mにわたってべったり塗るとなると,とてもコスト高になり,手間もかかる。たぶん,0mから1mまでのどんな距離でも測れるようにするだけなら,べったりと塗っていなくとも何とかなると思うのだが,どうしたものかと思ってのう」

 大工とセイウチと白騎士で考え始めたところ,この問題は意外に簡単で,0mから1mまでのどんな距離をも測れるようにする場合でも,(少なくとも理論的には)塗布箇所の合計長は好きなだけ減らせることがわかった。

 さて,読者の皆さんには,この塗布箇所をうまく設計して,その長さを減らす方法について考えていただきたい。ただし,距離の計測は1回で済むことが条件であり,何回かに分けて計測し,その結果を足したり引いたりすることは反則である。

 このままではかえってわかりにくいかもしれないので,多少の専門用語を交えて説明するなら,騎士の問題は,数学的には次のように定式化される。今,塗料が塗られている部分Sを閉区間 [0,1] の部分集合とする。すると,1回で計測可能な距離の集合DS)はSの要素同士の差が作る集合 {|ba| |abS}に等しい。もちろんDS)⊂[0,1]であるが,DS)=[0,1]という性質を保ったまま,集合Sの測度をなるべく小さくしたいというのが問題だ。測度というのは,簡単に言ってしまえば長さのことだが,Sはとぎれとぎれになっていることもあるから,無限個の区間に分割されている場合にも定義できるように,長さの概念を拡張したものといえよう。

 一般に塗布箇所Sはとぎれとぎれのk個の部分からなると考えられるが,次の問題として,0mから1mまでのどんな距離をも測れる場合,そのk個の部分の長さの合計を1/kmより小さくすることはできないということを証明していただきたい。

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