パズルの国のアリス

カメレオンたちの体重測定(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 読者は,わざと条件を曖昧にしておいたことにお気づきだろうか? つまり,カメレオンたちを赤・青のグループに分けるとき,必ず10匹ずつに分けねばならないのだろうかということである。チェシャ猫がやったグループ分けはたまたま10匹ずつになっていたが,アリスが選んだカメレオンによっては,たとえば,赤を9匹,青を11匹にするつもりもあったのだろうか?

 実は,赤・青の各グループの匹数が同じという条件がなければ,全カメレオンの体重が同じでなくとも,チェシャ猫のトリックが可能になる。たとえば,ウィルを含めた11匹の体重が180gで,残りの10匹が220gだったとしよう。このとき,アリスが180gのカメレオンを選べば,もちろん,残りのうち180g5匹と220g5匹で赤グループを作り,青グループも同様にすれば,両グループとも2000gにできる。一方,アリスが選んだのが220gのカメレオンだったとすれば,残りの220gのカメレオン9匹全員で赤グループを作り,180gのカメレオン11匹で青グループを作れば,この場合も両グループの合計体重は同じで1980gになる。

 しかし,両グループが10匹ずつという条件を満たさねばならない場合,チェシャ猫のトリックが可能になるには,全員の体重が同じだということがどうしても必要なのだ。このことを見るために,体重はすべて有理比を持つ,すなわちある小さな単位で量るとどれも整数値としよう。

 アリスがどのカメレオンを選ぶかは自由だから,たまたま一番体重の軽いカメレオンを選んだときも,チェシャ猫は残りをうまくグループ分けできなければならない。天秤の両側に載るカメレオンの数は同じだから,各カメレオンの体重を一律に軽くし,一番軽いカメレオンの体重をゼロにまで減らしたとしても釣り合いは取れたままである。天秤に載っているカメレオンの体重合計は,釣り合っているのだから,偶数だ。

 その中に体重が奇数になるカメレオンがいる場合,アリスがそのカメレオンを次に指定すれば,今度は天秤に載るカメレオンの体重合計は奇数になるので,チェシャ猫のトリックは破綻する。したがって,カメレオンの体重(厳密にはそれから一番軽いカメレオンの体重を引いたもの)はどれも偶数でなければならない。

 ところが,基準となる重さの単位を2倍にすると,体重は半分になる。このとき体重そのものは分数値になることがあるが,一番軽いカメレオンからの体重差は整数値を保つ。もちろん,釣り合いは取れているのだから,その場合でもこの合計は偶数でなければならない。こうして,どこかに奇数が生ずるまで,重さの単位を倍倍としていく。奇数が現れたら,次にそのカメレオンをアリスに指定されると,チェシャ猫のトリックは破綻する。というわけで,体重がすべて同じでないと,うまくグループ分けができない場合が生ずるのだ。

 さて,今の議論は整数の性質に強く依存しているので,体重が有理比を持っていないとうまくいかない。では,有理比でない体重がある場合,異なる体重のセットで,赤・青10匹ずつによるチェシャ猫のトリックが可能なのだろうか? いや,そんなことはない。これを証明するのは,やや高度な数学理論を使うので,線形代数の理論に詳しい読者のために概略の説明を記すにとどめよう。問題の体重は,高々21種しかないので,有限次元の有理線形空間を張る。つまり,有理数上線形独立な有限個の実数x1x2,…,xkを選んで,各体重をq1x1q2x2+…+qkxkという形に表現することができる。ここで,q1q2,…,qkは有理数である。このとき,上と同様な議論を進めることで,チェシャ猫のトリックを成功させるためには,どの体重についてもq1はどれも同じでなければならないことが示される。もちろんq2,…,qnについてもそうである。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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