パズルの国のアリス

怪しい鉄道運営(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 列車の運行を下の図のように表してみよう。横方向の矢印で駅間の移動とそれに要する時間を表し,縦方向の矢印で終点での停止時間を表す。

 落ち着いて考えれば,列車の運行に変な点は少しもなく,最初の問題はやさしいことがわかる。東ナイトは終点の東ルークの隣りの駅であり,白騎士が駅に着いたときに,列車が右の赤線部のどこかの状態にあれば,次に東ナイト駅に来るのは東からである。反対に,左の青線部のどこかの状態であれば,次に東ナイト駅に来るのは西からである。

 騎士の到着時刻は,列車の運行と無関係だから,騎士が最初に東ナイト駅に列車が入ってくるのを見るのが西からか東からかの比率は,図の赤線部の時間と青線部の時間の比に等しいはずである。終点での停止時間をx分とすれば,赤線部の時間は20+x分,青線部の時間は120+x分だ。白騎士の観察によれば,西からのほうが3倍半も多いということなので,20+x:120+x=1:3.5という比例式を解いてx=20が得られる。グリフォンは,こうして終点での停止時間を求めたのだ。

 実は,この問題の種は,かなり古いものであり,ジョージ・ガモフとマーヴィン・スターンが1958年に書いた”Puzzle-Math”という本でエレベーターの運行について述べたのが初出ということになっている。ガモフは,ビッグ・バン理論で著名な理論物理学者であり,トムキンス氏を主人公とする一連の物語など,難解とされる物理理論をわかりやすく解説する啓蒙書をたくさん書いているから,日経サイエンスの読者にはおなじみだろう。上のPuzzle-Mathという本は,日本では比較的最近になって翻訳され,『数は魔術師』(白揚社,1999年)というタイトルで出版された。

 ところが,多少問題ありで,「列車の本数が増えても,最初の列車が東西どちらから来るかの比率は1本の場合と変わらない」という旨の記述があるのだが,これは実は間違いである。この種の誤解は,条件つき確率を考える場合によく起こる。2本の列車にA,Bと名前をつけたとき,Aが東西どちらから来るかの比率は,もちろん1本の場合と変わらないし,それはBについても同じなのだが,「AがBより先に東ナイト駅に着く」という条件下では,「Aが東西どちらから来るかの比率」は,3.5:1ではない。これはBが先に着いた場合でも同様で,その場合に「Bが東西どちらから来るかの比率」は,3.5:1ではない。

 もちろん,この間違いに気がついたのは筆者が最初ではなく,調べてみるとTeXで有名なドナルド・クヌースが1969年に”The Gamov-SternElevator Ploblem(ガモフとスターンのエレベーター問題)”というタイトルの論文を書いて,この問題を詳しく論じていた。残念ながら『数は魔術師』ではこの誤解については何も触れていないので,本コラムで取り上げておこうと考えたのだ。

 さて,列車は180分かけて上の図のサイクルを1周するが,赤線部分の割合をp,青線部分の割合をqとして,一般的に問題を扱うことにしよう。もちろんpq=1で,計算の便宜上p≦1/2とする。まず列車が2本の場合を考えてみると,白騎士が東ナイト駅についたとき,両列車とも図で赤線の部分にあれば(確率p2)最初の列車は当然東から入ってくるし,両列車とも青線部分にあれば(確率q2)西から入ってくる。問題は,両区間に列車が1本ずつ分かれていた場合で(確率2pq),その場合に西からの列車が先に来る確率は,ちょっと工夫して考える必要はあるがp/2qであることがわかる。したがって最初の列車が西から来る確率は
 q2+2pq×p/2qq2p2
である。反対に東から来る確率は1-q2p2=2pqだ。鏡の国鉄道と東ナイト駅の場合,p=2/9,q=7/9だったから,それぞれ,53/81と28/81で東西の比率としては2倍以下に下がる。

 列車がn本の場合を上のような分類で解こうとすると,分析も計算も複雑になる。クヌースはさすがで,この複雑な分類や積分計算を見事にやってのけているが,筆者はもちろん,多くの読者もそのような解法を望まないであろう。エレガントな解法としてクヌースも最後に書き加えている方法があり,実は,うまく考えれば,分類や計算を著しく減らすことが可能なのだ。列車の運行サイクルを下図のように3つの区間(赤,青,緑の線)に分けよう。

 こうしておいて,騎士の到着後に最初に東ナイト駅に着く列車(便宜上Fと名づける)のことだけを考えるのだ。騎士が見る最初の列車はもちろんFだから,Fが騎士の到着時に赤の区間(東ナイト駅[東向き]→東ナイト駅[西向き])にいれば西向きだし,緑または青の区間にいれば東向きだ。ところで,Fが赤線の区間にいる可能性と緑の区間(西ビショップ駅[東向き]→東ナイト駅[東向き])にいる可能性はどちらが高いだろうか? このどちらも40分の区間だからまったくの五分だ。Fがそのどちらでもない青の区間(東ナイト駅[西向き]→西ビショップ駅[東向き])にいる可能性がある分だけ,西から来る確率が高くなっている。だから,Fが青の区間にいる確率を求めれば,問題は解決する。

 さて,ここで他の列車のことを考慮に入れよう。Fは他の列車より先に東ナイト駅に着くというのが前提だった。すると,他の列車が赤や緑の区間にいる可能性はない。逆に,どの列車も青の区間にいるならば,当然Fも青の区間にいる。というわけでFが青の区間にいることと全列車が青の区間にいることとは同値である。ある列車が赤の区間にいる確率をpとしたのだった。緑の区間も,列車がそこにいる確率がpとなるように決めた。したがって,ある列車が緑でも赤でもない区間,すなわち青の区間にいる確率は1-2pqpである。当然,(無関係に運行する)n本の列車がどれも青区間にいる確率は(qpnとなり,これはFが青区間にいる確率に等しい。ゆえに白騎士が最初に見る列車が東から来る確率,すなわちFが赤区間にいる確率は(1-(qpn)/2であり,反対に西から来る確率,すなわちFが緑か青の区間にいる確率は(1+(qpn)/2だ。鏡の国鉄道と東ナイト駅の場合,qp=5/9を代入すればよい。

 ところで,n本の列車が互いに無関係に運行するというのは,まったく非現実的な仮定であり,むしろ等間隔に運行させないと,鉄道運営側のサボタージュが疑われることは間違いない。列車の運行が等間隔だという仮定のもとでは,騎士の問題もまた違った様相を呈する。興味のある読者は考えてみられたい。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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