パズルの国のアリス

ヤマネたちの安心領域(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 アリスが宮廷の庭を散歩していると,珍しく三月ウサギと帽子屋に出会った。お茶の会を休みにして,ヤマネが7匹の姪たちを遊ばせに来たのにつきあっているらしい。遠くにヤマネと姪たちの姿が見える。
 2人はなにやら議論の最中だった。
 「だから,そんなのは円に決まってるって」と三月ウサギ。
 「そりゃ,俺だって,そうだと思うよ。でも,お前みたいにひねくれた図形があって円より大きくならないという保証はあるか?」と帽子屋。
 「何だ,俺みたいってのは。俺は,ひねくれてんじゃなくて,いかれてんだ。ひねくれてんのは,おめえだろ」
 アリスが聞いてみると,ことはヤマネと姪たちの視力の問題が発端らしい。ヤマネたちはそろって目が悪く,ちゃんと見えるのはせいぜい100mである。そのくせ心配性で,公園のような広いところでは互いに姿が見えないと不安でしかたがない。そこで,今も好き勝手に遊んでいるようだが,実は,帽子屋と三月ウサギが描いた直径100mの円の中に留まっているのだ。そうしている限り,どの2匹も互いの距離が100mを超えることはない。
 さて,帽子屋と三月ウサギが議論しているのは,ヤマネたちが安心して遊んでいられるそういう領域で,円よりもっと広い形はないかということだ。
 「だって,そんな領域があれば,直径100mの円にすっぽり収まってしまうでしょ」と,アリスが口を挟むと,帽子屋は,三月ウサギと顔を見合わせ,ウンザリしたように,「へ,そうかね。じゃあ,1辺100mの正三角形をどうやって直径100mの円に収めるか教えてもらいましょうか」
 アリスは,ハッとして,よく考えずに口を出したことを後悔した。
 帽子屋は続ける。「それだけじゃないよ。実は正三角形をこの図(右)のように膨らませても,その領域内のどの2点も距離が100mを超えることはないのさ」
 「そしたら,その図形の方が円より面積が大きいということは……」とアリスが言いかけると,「実際,計算してみると良いが,そういうことはないんだな」と三月ウサギ。「早い話が,どの2点間の距離も100m以内という条件を満たす領域で,面積が直径100mの円を超えるものなんぞ,どう考えたってあるわけない。それなのに,このひねくれ帽子野郎は……とはいえ,証明しろと言われると俺もちょっと困る」
 さて,先の三角形を膨らませた図形は「ルーローの三角形」という名で知られたもので,馴染みのある読者も多いだろう。
 弧BCはAを中心にした半径100mの円弧の一部であり,弧CA,ABも同様だ。そこで読者には,この図形の面積を計算して,直径100mの円より面積が小さいことを確認していただきたい。
 そして,次には,三月ウサギの予想について考えていただきたい。その中のどの2点も距離が100mを超えない領域で,円は面積最大のものだといえるだろうか?

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