パズルの国のアリス

死刑囚の生き残り戦略 (問題)

坂井 公(筑波大学)題字・イラスト:斉藤重之

「首をはねよ!」というハートの女王の声が時おり遠くから聞こえてくる。それをBGMのように聞きながら,ここスペードの死刑囚の監房では,エースと2 と3の3人がのんびりとくつろいでいた。初めて打ち首を宣告された4だけが不安そうにきょろきょろと辺りを見回している。

「何を心配しているんだ,4? 大丈夫だよ。打ち首というのは女王の口癖で,実際に処刑された者なんかいないんだから」と3が言う。

「俺なんか,宣告されたのはもう5 回目だよ」と2。「しかし,明日の朝には釈放されるとわかっているとはいえ,どうも退屈なのはかなわんな」。

「まあ,そうぼやくなって。白バラをペンキで赤く塗るようなばかげた仕事をさせられるよりましだろ」とエースが悟ったように言って,ごそごそとポケットから何やら取り出した。4が見るとサイコロである。「どうだい,これで一遊び行こうや」。

4人がサイコロ賭博に興じていると,看守が息せき切って飛び込んできた。

「おや,今日の看守はお前か,ダイヤの10。どうだいお前も一緒に」と2が誘う。「ばか,それどころじゃないぞ。今日は,あのアリスとかいう女の子が来てるから,公開にするんだとか言って,女王が張り切ってしまい,本当に処刑を行うと息まいてるぞ」。

さて,刑場に引き出された4人に,ハートの女王が宣告する。「いきなり処刑するのも哀れだから,チャンスをやろう。隣りの部屋に箱が4つ並べてある。それぞれの箱にお前たちの名前を書いた免罪符が1枚ずつ入っているが,もちろん,誰の免罪符がどの箱にあるかはわからない。これから順に隣りの部屋に行き, 箱を2つだけ開けてもらおう。うまく自分の免罪符を引き当てたら放免してやろうではないか」。

これを聞いた知恵者のエースが一計を案じた。 「陛下,それは悲しゅうございます。我らスペードは家族も同様。生きるも死ぬも一緒と誓っております。1人でも免罪符を引き当てられなかったら,全員,仲良く打ち首に願います」。

「何だと?」女王は少し考えた。「ふーむ,それぞれが自分の免罪符を引き当てる確率は1/2だから,4人全員がとなると,その確率は1/16ではないか。本当にそれでよいのか」。

エースは,2と3と4が色めき立つのを目で制して,「なるほど。それではせっかくチャンスを下されようという女王陛下の思し召しを無にすることになりますな。それではどうでしょう。我々それぞれに3つの箱を開けるチャンスをくださいませんか?」

「それでは1人当たりの確率は3/4に上がってしまうではないか。ははぁ,うまいことを言ってそれが魂胆だな。待てよ,その場合4人全員が免罪符を引く確率は,……ええい面倒な。誰か計算できる者はおらんか」

この問いにハートのジャックが恭しく進み出て,「3/4の4乗ですから,81/256になるかと存じます,陛下。つまり1/3より,少し小さいかと……」。

「何,1/3より小さい?」女王はスペードのエースをじっとにらみ「てっきり1/2 以上になるからかと思ったが……さては,自分が開けた箱の内容を仲間に伝えようと思っておるな。しかし,隣りの部屋で箱を開けた後は,お前たちは別々の扉 から出て行くから,処刑か放免か決着がつくまで会うことはできないのだぞ。それでもいいのか」。

「御意にございます,女王陛下」

もちろん,エースには,1/3より小さい確率に全員の命を賭けるつもりはない。箱のある部屋に入る前であれば,十分に相談をすることが許される。

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