パズルの国のアリス

アリスと蛇の輪(問題)

坂井 公(筑波大学)題字・イラスト:斉藤重之

日経サイエンスでは前身のサイエンスの時代も含めて創刊以来ずっと数学パズルに関するページを載せてきた。提携誌のSCIENTIFIC AMERICANから翻訳したもので,とくに初代著者のガードナー(Martin Gardner)の連載は人気が高く,パズル好きの間では,なかば伝説となっている。当時は学生だった筆者も毎号わくわくしたものだ。

残念ながら,数理パズルの連載をSCIENTIFIC AMERICANが止めてしまい,日経サイエンスからもパズルのページがなくなった。この時点では,自分も訳者の1人として作り手の側にいたが,そのせいだけではなく,これはとても寂しく残念なことだった。

そうしたおり,友人の紹介で Mathmatical Puzzles という本に出会った。「A Connoisseur’s Collection(ある目利きの蒐集品)」という副題が付いているくらいで,これが驚くほどよく選別された珠玉のパズルの集まりだった。著者であるウィンクラー(Peter Winkler)は前書きに,パズルの選別に用いた5つの基準を挙げている。

 

◆娯楽性: 楽しい問題であること。
◆普遍性: 一般的な数理的原理を示唆するような問題であること。ある特定の数の性質や巧妙な仕組みに依存するようなものは外す。
◆優美性: 簡単に述べられ覚えやすい問題であること。
◆難しさ: 解き方が明らかな問題でな いこと。
◆説得性: 容易に納得できる初等的な解を持つこと。

 

この本のパズルは確かにどれも5つの基準のほとんどを満たしていた。最初はどう解くのか見当をつけにくいのに,ひらめきがあれば,高校数学程度の知識と純然たる数理的考察を駆使するだけで解ける。何よりも驚いたことに,あまり知られていないパズルばかりなのだ。これはとても珍しいことだ。

著者のウィンクラーに連絡をとり,SCIENTIFIC AMERICANの日本版にパズルのコラムを書きたいが,その際, この本から題材を採りたいと願い出たところ,快諾してくれた。ガードナー人気は世界的で,「日本でのその伝統を守ってほしい」という言葉まで添えてあった。ガードナーの伝統を受け継ぐほどの自信はないが,数理パズルの面白さを少しでも伝えられたらと思う。

数理パズルは骨子だけにすると非常に素っ気ない。それでは,あまり楽しくないので,筆者の大好きな『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の登場人物 を借りることにした。パズル好きには『アリス』愛読者が多い。ガードナーもその1人で,『アリス』の注釈本も書いているくらいだ。アニメや絵本の『アリ ス』しか知らない方がいたら,本物をぜひおすすめしたい。

能書きはこのくらいにして,下の問題から挑戦していただこう。

 

ひっくり返して,ひっくり返して…表は何枚?

問題:アリスの目の前にトランプのカード52枚が裏返して並べてあった。見ていると,ねずみがやってきて,すべてのカードを表にして去っていった。次にオウムがやって来て,左から数えて偶数枚目のカードだけをひっくり返していった。さらに, アヒルが来て,左から数えて3枚目, 6 枚目……と3枚目ごとにひっくり返していった。このように,動物たちが次々とやって来て,n番目の動物は左からnの倍数枚目のカードの裏表を反転させていった。最後に52番目となるドードー鳥が来て,右端のカードをおもむろにひっくり返して去っていった。このとき,表になっているカードの枚数は何枚だろうか? 


 解答7枚。一般的に,N枚のカードに対して, N匹(羽・頭)の動物が同様のことをした場合,最後に表になっているカードの数は(ルートNの整数部分)となる。

どう考えればよいのか見当がつかなかったら,カードの枚数を10枚ほどに減らして,頭の中で試してみるのが一番だ。このとき,最初のねずみの後は「表表表表……」,次のオウムの後は「表裏表裏表……」と考えるのではなく,例えば3枚目のカードはいつひっくり返されるかを考えるといい。

特定のカードに注目してみよう。例えば3枚目のカードをひっくり返すのは,1番目と3番目の2匹だけだ。4 枚目のカードは1,2,4番目の動物たちがひっくり返す。6枚目のカードでは,1,2,3,6番目の動物となる。こうなれば,「約数」番目の動物がひっくり返すことはすぐにわかるはずだ。

問題はひっくり返す動物の数(つまり,約数の個数)が偶数であるか奇数であるかだ。それによって最後の裏表が決まる。上の例の場合,動物の数が奇数となるのは4枚目のカードだけで,これが最後に表となる。

特殊な数を例外とすると,約数は必ずペアを作るので偶数個になる。6の場合,1と6,2と3がペアになる。4 は特殊な数で,1と4はペアを作るが,約数の2はその2乗で4となる。もうおわかりだろう。自然数を平方根とする数(平方数と呼ぶ)だけが,奇数個の約数を持つ。

カードが52枚までの場合,平方数は1,4,9,16,25,36,49の7つだけなので,7枚となる。

 

 

今月の問題:アリスと蛇の輪

 問題問題:暖かい春の陽射しを浴びて,大きな壷の中からたくさんの蛇が頭と尻尾を出していた。アリスが遠くからおっかなびっくり様子を見ていると,トカゲのビルが寄ってきて,爬虫類同士のよしみからか,言う。「大丈夫ですよ,お嬢さん。この蛇たちは毒を持っていないし,よく馴れていて決して噛み付いたりしませんから ……それどころか,とても友好的で話もできるんですよ」。それで安心してアリスが近づいて数えてみると,頭と尻尾はちょうど10匹分ずつ外に出ている。

「あなたたちは10匹で全部?」

「当たり前さ。こんないい天気の日に壷の中に潜り込んでいるような酔狂なやつは仲間にはいないね」と一匹が代表して答える。「でも,長いこと壷の中でのたうっていたものだから,すっかりこんがらかって,どれが自分の尻尾か,自分でも見ただけではわからなくなってしまったよ」。

「あなたの頭の色と一番近いのはこの尻尾のような気がするけど……」とアリスが一番手近の尻尾を指すと,「そう思うかい? だけどね,俺たちの体の色や模様は,頭から尻尾にかけて微妙に変化しているから,見た目なんかちっともあてにならないのさ」。「でもきっとこれだと思うわ」とアリスはむきになる。

「そうかな? じゃあ,こういう賭けはどうだい。君がそうだと言う尻尾に俺たち一匹一匹が噛み付く。全部当たれば俺たちの体で輪が10個できるね。ひとつも当たらなくても1つは輪ができる。賭け金は銀貨3枚で,できた輪1つにつき銀貨1枚を払い戻すというのは,どうかね。輪は互いに絡まっていたりすることもあるだろうけど,それはどうでもいい」

さて,蛇の言うように,頭と尻尾の対応に手がかりがないとすると,アリスはこの賭けに乗ったほうがいいだろうか? また,壺から出ているのが蛇の頭と尻尾ではなく,両端の区別がないロープで,その端同士を結んで輪を作るとしたら,輪1つあたりの払戻金が銀貨1枚のとき,賭け金がいくらならその賭けに乗るのが得だろうか。

 


 ヒント:この賭けでいくつ蛇の輪ができるか,その個数の期待値を求めればいい。それが3以上なら賭けに乗ったほうが得だし,3未満なら損だ。まず,蛇の数が少ないときに,この期待値を計算してみよう。蛇が1匹の場合,輪は必ず1個できる(1×1=1)。蛇が2匹の場合,できる輪の数は1つか2つになるが,このどちらかが1/2の確率で出るので期待値は1.5個となる(1×1/2+2×1/2=3/2=1.5)。数が増えるにつれて式を立てるのが面倒になるが,ちょっとした“ひらめき” があれば,ずっと簡単に考えることができる。

解答はこちらです