日経サイエンス  1999年12月号

光が見えてきた脊髄損傷の治療

J. W. マクドナルド  クリストファー・リーヴ麻痺財団研究所 ほか

 転落事故や交通事故が原因で,脊髄に重度の損傷を負った場合,損傷部位から下が完全・不完全に麻痺し,感覚が失われてしまう。こうした脊髄損傷による障害は,10年前までは阻止する手段がなかった。末梢神経系と異なり,中枢神経系の組織(脊髄と脳)には自己回復力がほとんどないからだ。
 ところが,1990年にメチルプレドニゾロンというステロイド剤を脊髄損傷後8時間以内に大量投与することで,運動・感覚機能の一部が維持できることが明らかになった。この治療法をきっかけにして,脊髄損傷による機能障害を軽くする治療方法の研究がにわかに活発になってきた。
 現在のところ,損傷の広がりをできるだけ早期にくい止めて,ダメージを受けた細胞から毒性物質が出るのを抑え,次に傷ついたミエリン鞘や軸索の再生を助ける方法が検討されている。また,損傷した部分に中枢神経系の細胞を移植して,移植細胞を架橋材にする治療法も研究されている。(本文より)

著者

John W. McDonald / the Research Consortium of the Christopher Reeve Paralysis Foundation

マクドナルドとクリストファー・リーヴ麻痺財団研究所の研究員らは1995年から共同研究をしてきた。マクドナルドはワシントン大学(セントルイス)医学部神経・リハビリ学助教授,セントルイス市バーンズ・ジューイッシュ病院脊髄損傷科医長。共著者は次のとおり。Aileen J. Anderson, Carl W. Cotman(カリフォルニア大学アーバイン校)Ira B. Black(ロバート・ウッド・ジョンソン医科大学)Christian Broesamle, Isabel Klusman, Martin E. Schwab(チューリヒ大学)Mary Bartlett Bunge, Giles W. Plant(マイアミ大学医学部)Dennis W. Choi(ワシントン大学医学部)Fred H. Gage, Philip J. Horner(ソーク研究所)Daniel J. Liebl, Luis F. Parada(テキサス大学サウスウェスタン医療センター)Chan Roonprapunt, Wise Young(ラトガース大学)

原題名

Repairing the Damaged Spinal Cord(SCIENTIFIC AMERICAN September 1999)