日経サイエンス  1999年12月号

特集:ティラノサウルス

化石に隠されていた意外な生態

G.M. エリクソン(スタンフォード大学)

 恐竜は6500万年前に地球上から姿を消したが,今も私たちの心の中に生きている。ヴェロキラプトルは銀幕のスターだし,トリケラトプスは子供たちの夢の中を駆け回っている。しかし,このようなカリスマ的魅力のある動物の中でも,つねにこの夢の世界を制覇してきた種がいる。それが,ティラノサウルスだ。子供も,映画監督スティーヴン・スピルバーグも,古生物学の専門家さえも,過去も現在も恐竜のスーパースターはティラノサウルス・レックスだと考えている。
 スピルバーグの映画「ジュラシック・パーク」では,これまでの恐竜に関する描写のなかで最も正確で一般的なものが誇らしげに映し出されていた。ティラノサウルスは,そこでもまた,攻撃的で血に飢えた,無力な獲物に襲いかかるためにだけ存在する殺し屋のように描かれていた。1世紀にわたる研究と,22体のほぼ完全な全身化石標本から,解剖学的な特徴はかなりのことがわかってきた。しかし,解剖学的特徴だけから行動を推定することは難しく,ティラノサウルスの本当の生態は,大部分が謎のままだ。ティラノサウルスが生きた獲物を狩る狩猟者だったか,死体を食べる腐肉食者だったかについてさえ,いまだに議論が続いている。
 この10年くらいの間に若手の科学者たちが,これまで知られていなかったティラノサウルスの秘密を解き明かし始めた。新しい化石や今までは見過ごされていた化石から,この偉大な動物の本質についての新しい考えを得るにしたがい,ティラノサウルスは私たちが見ている前で変化しているのである。
 ティラノサウルスは,「ジュラシック・パーク」にも見られるように,1頭で行動する動物として描かれている。しかし,これまでに集まった証拠は,ティラノサウルスは少なくとも一生のうちのある期間は群れで暮らしたことを示している。

著者

Gregory M. Erickson

1986年にモンタナ州東部の荒野にあるヘル・クリーク層群で初めての発掘経験を得て以来,恐竜の研究をしている。1992年にモンタナ州立大学でホーナー(JackHorner)の指導のもと修士号を,1997年にカリフォルニア大学バークレー校でウェイク(MarvaleeWake)のもとで,博士号を取得した。現在スタンフォード大学とブラウン大学の研究員だが,近く,フロリダ州立大学生物学科で教鞭を執ることが決まっている。脊椎動物の骨格の形態,機能,発生,進化の解明を中心に研究しており,ティラノサウルスを研究材料の中で最も好きな動物の1つにあげている。古脊椎動物学会でローマー賞,米国魚類・爬虫類学会からストーイ賞,そして,複合・比較生物学学会からデーヴィス賞を受賞している。

原題名

Breathing Life into "Tyrannosaurus rex"(SCIENTIFIC AMERICAN September 1999)