日経サイエンス  1999年12月号

アジア中央部の不思議な喉歌ホーミー

T. C.レビン(ダートマス大学) M. E. エドガートン(ウィスコンシン大学)

 モンゴルの北西,ロシアのトゥバ共和国では,通常の会話や歌とは全く異なる声を出すことができる喉(のど)歌歌手がいる。彼ら遊牧の詩人は自然と交信し,その音環境を描写する方法のうち,技巧の面において飛び抜けているものは2つの異なる音を1人の歌手が発声するという驚くべき唱法だ。一方の音は低く,一定の基音を維持する。これはバグパイプのドローンに似ている。もう一方は倍音列を用いた笛のような音,すなわちドローンよりも高い共鳴音で,音にたとえるならば鳥のさえずり,渓流の音のシンコペーションといったものになろう。
 現地の言葉ではこの唱法は一般にフーメイ(ホーメイ),あるいはフーミー(ホーミー)と呼ばれており,この語はモンゴル語の「喉」に由来している。英語では通常,喉歌(throat-singing)と呼ばれる。この音楽は表現文化の一例であると同時に,人間の声音の例の1つでもある。
 トゥバにおける喉歌の起源伝説では,人間がこのような歌い方を習得したのは大昔であることが強調されている。それによると一番最初の喉歌の歌い手は,自然の音(例えば,ザブザブと流れるような,倍音を豊かに含んだ音)をまねたいと望んだのだそうだ。トゥバの民謡はアニミズム(すべての自然物や自然現象には霊が宿るという信仰)と強く結びついてはいる。だが今日歌われている喉歌の,本当の起源は不明瞭だ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス210「アートする科学」に改題して収録

著者

Theodore C. Levin / Michael E. Edgerton

2人はScientific Americanに執筆するため,昨年から共同研究を始めた。レビンは1977年,中央アジアの音楽のフィールドワークを組織。1987年には,トゥバ入りを許された初の米国人音楽研究者となる。トゥバの要人は喜びと恐れを持って彼を迎え,すべての村ではペンキを塗り直し,草原では地元女性がリネンのかかったテーブルの上にゆでた羊の肉を出してくれた。1991年からダートマス大学で教鞭を執っている。彼は多くのコンサートツアーやレコーディングプロジェクト,文化交流などを組織してきた。エドガートンは作曲家として世界中で演奏をしており,米国と韓国で声楽のアンサンブルを指導している。彼の作品は基本的にはCPプレス出版(ときどき珍しいパフォーマンスを取りあげる)から発行されている。現在彼はウィスコンシン大学声楽機能研究所のポスドクで,米国立音声会話センターの奨学金を得ている(NIHgrant no. P60DC00976 )。

原題名

The Throat-Singers of Tuva(SCIENTIFIC AMERICAN September 1999)