日経サイエンス  1999年11月号

子供の非行とモラル形成

W.デーモン(スタンフォード大学)

 最近,子どもたちが自分たちの学校や地域で暴れ回り,その日常生活を崩壊させているという新聞記事を折に触れて目にする。先生や友人に暴力を振るったり,親を殺害したり,敵意や金銭欲,恨みなどから他人を迫害している。薬物や街頭賭博に走る凶暴な非行少年たち,10代の子によるレイプ,青年による公共物の破壊,有名エリート校においてさえ見られるカンニングの蔓延などを耳にする。最近では,中流階級の非行少年たちが,裕福なカリフォルニア郊外の住宅街を襲い,脅迫,強盗をしたうえ,この反社会的行為に得点を与えろと誇らしげに語った。
 こうしたニュースは暗い気持ちにさせるが,心にとめておかなければならないことは,ほとんどの子どもたちは,社会の規則を守り,規律に従って行動し,友達に親切に接し,嘘はつかず,目上の人を尊敬しているということだ。多くの若者たちはそれ以上のことをしている。米国では,ボランティア活動をしている青年の割合は,地域による違いはあるものの22~45%である。
 道徳性の発達を科学的に記載するならば,善と悪の両側面を説明しなければならない。なぜ,多くの子どもたちは,あきらかに自分の利益に反する時でさえ,良心に従って行動できるのだろう。なぜ一部の子どもは,自分や他人に危害を加えるような逸脱行為をするのだろう。どのようにして子どもは道徳的規範を獲得し,生涯にわたって道徳的行動をとるようになるのだろう。それができない子はなぜそうなるのだろう。

 

 

再録:別冊日経サイエンス193 心の成長と脳科学

著者

Willam Damon

8年生(日本の中学2年生)のとき,嫌われっ子をいじめるグループに属していた。学校新聞に自分の行為を書くと,国語の先生から「君の作文にはAをつけるが,君がしていることは本当に恥ずかしいことだ」と言われた。そのときの言葉が,今も心に残っている。デーモンは,現在,スタンフォード大学青年期センターの所長。センターでは,彼の言葉によると,「青年期という,人間の発達の中で,最も理解されず,最も信頼されず,最も恐れられ,最も無視される時期」を専門に扱う学際的な研究が行われている。発達心理学者の彼は,知性と道徳性の発達,教育方法,子どもに対する友人や文化の影響に関する研究を続けている。彼の著書は多数あり,家庭では3児の父親で末っ子が高校生だ。

原題名

The Moral Development of Children(SCIENTIFIC AMERICAN August 1999)