日経サイエンス  1999年10月号

謎の素粒子ニュートリノを追う

ついにとらえたタウニュートリノ

丹羽公雄(名古屋大学)

 1998年6月,岐阜県高山でのニュートリノ国際会議の席上,スーパーカミオカンデの国際研究グループは,ニュートリノの質量の存在を確認したと発表した。同じ会議でタウニュートリノ発見も報告され,これも大ニュースとなった。私たち名古屋大学と米国立フェルミ加速器研究所の共同グループが発表した研究成果だった。
 タウニュートリノは現在の素粒子物理学の枠組みである「標準理論」によって,20年来,存在が確実視されていながら発見できずにいた。その意味で今回の成果は標準理論を検証する“重要証拠”としての意義がある。しかし,それは同時に,標準理論を超える新理論の探索に向けたエキサイティングな物語の幕開けを告げるものでもあった。
 標準理論によれば,ニュートリノは電子などの電荷をもつ軽い粒子(荷電レプトン)とペアを組むことになっている。実際,電子の相方となる電子ニュートリノは1956年に,ミュー粒子とペアを組むミューニュートリノは1962年にそれぞれ発見された。
 これに対し,タウニュートリノについては,1976年に相方のタウ粒子が発見されたが,つい最近まで,私たちの前に姿を現すことはなかった。タウ粒子が発見されてすぐ,タウニュートリノ検出実験が米国で計画されたが,実現には至らなかった。大きな問題は,実用的なタウニュートリノの観測システムの開発に十分な見通しが得られなかったからだった。
 私たちは粒子の軌跡を1/1000mmという精度で精密に記録できる原子核乾板を利用,その解析をコンピューターで自動化し,処理速度を大幅に高めることで,膨大なバックグラウンドの中に埋もれたタウニュートリノのシグナルをとらえることに成功した。

著者

丹羽公雄(にわ・きみお)

名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻教授,理学博士。専門は素粒子実験物理学。とくに原子核乾板を用いたニュートリノ振動実験などに取り組んでいる。