日経サイエンス  1999年10月号

特集:燃料電池の未来

携帯機器からバッテリーが消える

C.K.ダイアー(モトローラ社)

 携帯用電子機器の発達は目覚ましいが,駆動電源であるバッテリーとなるとあまり進歩は見られない。にもかかわらず,おもちゃからノート型パソコンまでいろいろなものに使われている20W程度までの電源としては,バッテリーしかないのが現状だ。しかし,バッテリーは重くて値段が高い。それになんの警告もなく,バッテリー切れを起こしてしまう。バッテリーが切れた場合は,交換するか,充電が必要になるが,交換には使用済みバッテリーの処理の問題が付きまとうし,充電には多くの時間を要する。なにかバッテリーに代わるものはないだろうか。
 その答えは,皮肉にも1世紀以上前の発明品である燃料電池ということになるかも知れない。理論的には,燃料電池の技術はバッテリーと同じで,物質のもつ化学エネルギーを電気に変換する静かでクリーンな変換器だ。しかし,燃料電池の真価は,水素から電気エネルギーを引き出すその驚くべき能力にある。メタノールで発電する燃料電池は,同程度の大きさのニッケル・カドミウム電池と比較して,20倍も長く電気を供給でき,しかもより安くて軽い。それに,長時間かかる充電が不要で,その代わりに単に燃料を足すだけで,素早く再発電が可能になる。

著者

Christopher K. Dyer

AT&Tベル研究所に勤務後,ベル・コミュニケーションリサーチ(ベルコア)に移り,現在はモトローラに勤務している。1998年まではベルコアとモトローラの合弁企業であるレッドバンク・リサーチ社の社長を務め,そこで携帯電子機器用に考案した薄膜燃料電池を開発した。ケンブリッジ大学卒。Journalof Power Sources誌の米国担当記者でもある。

原題名

Replacing the Battery in Portable Electronics(SCIENTIFIC AMERICAN July 1999)