日経サイエンス  1999年5月号

進化の実験場タンガニーカ湖

M. L. J. スティアスニー(アメリカ自然史博物館) A. メイヤー(独コンスタンツ大学)

 東アフリカにあるタンガニーカ湖の大部分は,深く,水は澄んでいても暗い世界だ。しかし,浅瀬は光にあふれており,たくさんのカワスズメ科の魚(シクリッド)たちが群がっている。
 波打ち際で目立つのは,藻を食べるエレトモードゥス。茶色や緑色の背景に,ブルーのスポットのある体色が美しい。荒波が来ても丸い背でやり過ごし,岩の表面から引き離されることはない。彼らは彫刻刀のような歯で,岩の表面から藻類を噛み取る。
 近くにいるのは,昆虫を食べるタンガニコードゥスだ。エレトモードゥスとよく似て丸まった背をしている。しかし,角張った頭部,尖った口,そして長く細い歯は,岩の割れ目から昆虫の幼虫を引き抜くことに都合がよい。
 もう少し深くて静かなところでは,石ころ混じりの砂底に巻貝の古い空き殻が散らばっている。これらの貝殻の中には,小さなランプロログスの雌が,自分の卵や子どもといっしょにすんでいる。雄はとても大きくて,貝殻の中には入れない。その代わり,貝殻を(時には中に入っている雌ごと)他の雄から奪ってきて,自分のハーレムに配置する。
 隠れ家の岩の周りを遊泳するのはトロフェウス類。また別の藻食者だ。岩場と岩場の間が砂地によって何百mも離れていると,小さなトロフェウスが安全に行き来するには離れすぎということになる。その結果,離れた岩場のトロフェウスは,ガラパゴス諸島の鳥ダーウィン・フィンチのように,それぞれの場所で独自のものに進化してきた。ある岩場には黄色の線の入った黒いトロフェウスがいるのに,別の岩場では白地に青線の個体を見かけるという具合である。この連中には,色が異なるタイプ(色彩型)が100近くもあることが見つかっている。
 ほかには,口の中で子育てをするもの,他の魚の鱗を食べるもの,托卵をするものなど,奇妙な魚がすんでいる。
 シクリッドは,アフリカ,マダガスカル,南インド,スリランカ,および南・中央アメリカの熱帯の川や湖に生息しているが,東アフリカ大湖沼群の,ビクトリア湖,マラウイ湖,タンガニーカ湖には特に多くの種が生息している。
 これらの湖もカワスズメ科も,ずっと昔に現れていたにもかかわらず,彼らの驚くべき多様性は,この200万~300万年間に生じたことが明らかになってきた。

著者

Melanie L. J. Stiassny / Axel Meyer

スティアスニーは,ロンドン大学で1980年に学位を取り,現在,アメリカ自然史博物館の魚類部門の主任を務めている。彼女の研究のテーマは,主としてシクリッドの系統学,進化形態学,そして最近では保全生物学である。メイヤーは,学位を1988年にカリフォルニア大学バークレー校で得て,現在,ドイツのコンスタンツ大学で生物学の教授職にある。彼の興味は,分子および,個体レベルでの生物的多様性(とくにシクリッドの多様性)の起源にある。彼は進化の過程の研究にDNA塩基配列分析を用いた最初の1人である。

原題名

Cichlids of the Rift Lakes(SCIENTIFIC AMERICAN February 1999)