日経サイエンス  1999年4月号

特集:揺れ動く宇宙論

宇宙は第2のインフレーションに突入したのか

佐藤勝彦(東京大学)

 米欧オーストラリアなどの研究者からなる2つの研究チームが,遠方の超新星を高精度で観測,「現在の宇宙には真空のエネルギーが満ちており,それによって今,宇宙は加速度的な膨張を始めている」とする結論を発表した。真空のエネルギーは,空間そのものがもつエネルギーなので,いくら宇宙が膨張しても,エネルギー密度は変わらない。一方,物質密度は膨張によって低下し続ける。観測結果を信じるなら,宇宙は今,再び真空のエネルギーが宇宙を満たすエネルギーの主役となり,第2のインフレーションが始まっていることになる。
 では,このインフレーションは永遠に続くものなのだろうか。それには,過去,真空がどのような“歴史”をたどってきたかが,1つの手掛かりになる。力の統一理論は未完だが,もし,その大筋を信じるなら,真空のエネルギー密度は4回の真空の相転移を経て現在の状態まで下がってきた。4回目の相転移は,素粒子クォークで満たされた状態から,私たちに馴染みのある陽子や中性子など(ハドロンと総称する)に満たされた状態への転移だ。
 この4回目の相転移の結果,真空のエネルギーの値が現在と同じ値となって落ち着いたとすると,再度,何兆年後かに真空の相転移がおこり,現在始まった第2のインフレーションが終了する可能性がある。

著者

佐藤勝彦(さとう・かつひこ)

東京大学大学院理学系研究科教授,理学博士。専門は宇宙論と宇宙物理学。とくに宇宙の創生と初期宇宙,さらに超新星爆発や,元素・物質の起源を研究している。インフレーション理論の提唱者の1人。