日経サイエンス  1999年1月号

再び眠りにつく360万年前の人類の足跡

N. アグニュー M. デマ(ともにゲティ保存研究所)

 1976年,タンザニア北部のラエトリ地方で有名な考古学者メアリー.リーキー(Mary D. Leakey) 率いるチームは,数百年前に東アフリカにいた初期人類の化石を探していた。

その夏,長い野外調査の一日が終わり,リーキーのキャンプを訪れていた3人の研究者は,乾燥した象の糞を互いに投げつけて遊んでいた。古人類学者のヒル(AndrewHill)が,投げられた糞を避けようと地面に伏した時,彼は,露出したタフ(火山灰が積もってできた堆積岩)に動物の足跡らしきものがあるのに気がついた。周辺を詳しく調査してみると,象,キリン,サイ,その他数種類の絶滅した哺乳類の化石化した何千もの足跡が見つかった。しかし,それ以上にとてつもないものがそれから2年後に発見された。

 1978年と1979年に行われた足跡のタフ(凝灰岩ー火山の噴出物が固まってできた岩石)の発掘によって,27mにわたり平行した2筋の人類の足跡が現われた。火山の堆積物は,放射性年代測定から,340万年~380万年前のものと推定された。

 ラエトリの足跡の発見により,初期人類が石器の制作や脳の拡大よりもずっと前に,完全な直立二足歩行(直立姿勢で2本足で歩く運動様式)をしていたことが証明された。さらにその足跡から,化石の骨からははっきりしなかった,当時の人類の足の軟部組織や,歩幅についても知ることができるようになった。ところが,足跡は発見された後,近くを流れるヌガールシ川の浸食や植物の成長などが原因で,崩壊の危機に直面しかけた。文化的遺産の保護に関わるロサンゼルスのゲティ保存研究所の2人が,タンザニア政府と共同で行ってきた過去6年間にわたるラエトリの足跡の保護プロジェクトの全貌を語る。

著者

Neville Agnew / Martha Demas

2人はゲティ保存研究所のタンザニア,ラエトリでの作業の中心となった。アグニューは南アフリカのダーバンにあるナタル大学で学び,化学の博士号を持つ。彼は,ゲティ保存研究所に1988年に雇用される前に,オーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド博物館の保護部局長だった。また,中国,エクアドル,アメリカの保護プロジェクトを行い,現在,ゲティ保存研究所の情報とコミュニケーションの部長である。ドマはシンシナティ大学からエーゲ考古学の博士号,コーネル大学から,歴史的保護の修士号を獲得した。彼女は,1990年にゲティ保存研究所に入り,現在,中東と中国の保護プロジェクトの開発と管理に携わっている。

原題名

Preserving the Laetoli Footprints(SCIENTIFIC AMERICAN September 1998)