日経サイエンス  1998年5月号

グリーンランドの氷が語る気候の激変

R. B. アレー(ペンシルベニア大学) M. L. ベンダー(プリンストン大学)

 現在,地球は温暖化傾向にあり,二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中の濃度は上昇を続けている。しかし,こうした変化が各地の気候にどんな影響をもたらすかはよくわかっていない。そのため,大規模な気候変動が起こる仕組みの解明を目指して研究が進んでいる。

 

 手掛かりは“過去”にある。グリーンランドや南極大陸を厚く覆う氷床は,過去数万年の間に降り積もった雪が融けずに自身の重みで圧縮されて氷となったもの。その中には雪が降った当時の大気や風で運ばれてきたチリも取り込まれている。氷床には過去の気候の情報が封印されているのだ。

 

 気候学者は氷床を深さ数千mまでボーリングしてサンプルを採取,その詳しい分析から過去の気候変動を探ろうとしている。得られた氷床サンプルはボーリングした深さに等しい長大な柱状の氷で「アイスコア」という。

 

 最近,グリーンランド氷床のアイスコアの分析から新たな発見がもたらされた。これまで知られていた数万年サイクルの気候変動とは別に,数百年から数千年という非常に短い時間スケールで気候が激変する現象が多数,見い出されたのだ。その間の気温変化は極端な場合,10℃以上にも達する。人類は近代文明を築いて以来,こうした気候の激変をまだ経験していない。 (本文より)

著者

Richard B. Alley / Michael L. Bender

2人は1990年代初めに実施された米国によるグリーンランド中央部の氷床での大深度ボーリングの研究グループのメンバー。現在は南極西部の氷床での米国のボーリング計画に加わっている。アレーはウィスコンシン大学でPh. D.(地質学)を取得,現在はペンシルベニア州立大学教授(地球科学)で同大学の地球システム研究センターにも所属する。氷河や氷床の分析による過去の気候変動や,それらの成長や融解による海水面の変動などの研究に取り組んでいる。 ベンダーは現在,プリンストン大学教授(地球科学)で,酸素の同位体分析などを使って過去の気候変動を研究している。コロンビア大学ラモント・ドハティー地球研究所で学んだ後,ロードアイランド大学の海洋学教室で25年間教鞭を取った。

原題名

Greenland Ice Cores: Frozen in Time(SCIENTIFIC AMERICAN February 1998)

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