日経サイエンス  1998年3月号

ウイリアムズ症候群が明かす脳の謎

H. M. レンホッフ(カリフォルニア大学) P. P. ワン(ペンシルベニア大学) F. グリーンバーグ(米国立衛生研究所) U. ベルージ(ソーク生物科学研究所)

 IQ(知能指数)がわずか49の10代の女性に象の絵を描いてもらったところ,何が描いてあるのかはほとんど判別できなかった。ところが,象について話をしてもらうと,その話は印象深く朗々と叙情的でさえあった。「それは長い灰色の耳なの。うちわのような耳よ。風を送ることができる耳なの・・・」

 

 言語能力の点で,その若い女性は非常に典型的なウイリアムズ症候群の例と言える。この症候群は,症状の珍しさゆえに,最近広範囲な分野の科学者の注目を引き始めている。

 

 ウイリアムズ症候群の人々は,しばしば軽度ないし中度の「遅滞」と診断され,たいていの場合,標準的なIQテストで平均よりも低い成績を示す。通常,読み書きの能力も劣っており,簡単な計算にさえ困難をおぼえる。しかし,いくつかの分野で非凡な才能を発揮する。その能力は話し言葉に留まらず,人の顔を見分ける能力にまで及ぶ。全体的に豊かな情感をもち,多弁で社交性が高い傾向がある。逸話的な証拠しかないが,驚異的な音楽の能力を発揮する人も少なくない。(本文より)

著者

Howard M. Lenhoff / Paul P. Wang / Frank Greenberg / Ursula Bellugi

4人はウイリアムズ症候群について多くの知見を発表している。レンホッフはカリフォルニア大学アーバイン校生物科学科の名誉教授で,42歳のウイリアムズ症候群の音楽家の父でもある。レンホッフはウイリアムズ症候群と他の人々の間で音楽認知がどう違うかを比較するチームの筆頭研究者でもある。ワンはペンシルベニア大学医学部小児科の助教授で,ウイリアムズ症候群と他の遺伝的障害の神経行動学的な解明を目指した研究をしている。グリーンバーグは米国立衛生研究所(NIH)の人・ゲノム研究センターの臨床コンサルタントで,20年間ウイリアムズ症候群について研究してきた。ベルージは,ソーク生物科学研究所の認知神経科学研究室の責任者で,ウイリアムズ症候群の日的,神経解剖学的,神経生物学的な特徴を分析するチームのリーダーを10年以上務めている。

原題名

Williams Syndrome and the Brain(SCIENTIFIC AMERICAN December 1997)

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