日経サイエンス  1997年12月号

偽りの記憶をつくる──あなたの思い出は本物か

E. F. ロフタス(ワシントン大学)

 米国で4つの裁判があり,いずれも訴えた女性が勝った。彼女たちはセラピストに誘導されて,ありもしない記憶を植え付けられていたのである。たとえばある女性は,セラピーを受けていて,子どものときに牧師である父親からたびたび性的暴行をうけ,2回も堕胎したという記憶を“思い出した”。ところが,この女性は処女で,妊娠したことがないことが医学的に証明されたのである。

 

 人間の記憶,とくに子ども時代のように,遠い昔の記憶は,他人から誘導されたりすると,歪められることがある。それどころか,著者たちの研究から,体験したことのない記憶までも“思い出させる”ことができるのである。

 

 たとえば,そのことをイメージするだけでも,実際に体験したかのように感じるようになってしまう。容疑者の尋問をする捜査官や目撃者から証言を得ようとする人,セラピストは,このことをよく知っておかないとならないだろう。(本文より)

著者

Elizabeth Loftus

シアトルにあるワシントン大学の心理学の教授,法学の準教授である。1970年,スタンフォード大学で心理学の博士号を取得した。専門は人間の記憶,目撃証言,法廷での手続きなど。18冊の著書と250本以上もの学術論文を著わし,何百もの裁判で専門家として発言している。著書『目撃証言の心理学』はアメリカ心理学財団によるナショナル・メディア賞を受賞した。彼女はまた,マイアミ大学,ライデン大学,およびジョン・ジェイ刑事法大学から名誉博士号を授与されている。最近,アメリカ心理学会の会長に選出された。

原題名

Creating False Memories(SCIENTIFIC AMERICAN September 1997)