日経サイエンス  1997年12月号

アステカ帝国繁栄の秘密

M. E. スミス(ニューヨーク州立大学アルバニー校)

 アステカ帝国は12世紀から16世紀にかけてメソアメリカに繁栄した広大な国である(メソアメリカは,考古学で,コロンブス以前に文明の栄えたメキシコ中部からニカラグアまでの地域をさす)。この国は租税により治められており,皇帝の下には都市国家があって,各地方の王家は年に4回,中央に税を治める仕組みになっていた。この租税制度の底辺を支えていたのは,もちろん平民たちである。いったいどうやって彼らは税の支払いを果たすことができたのか。納税に負われて困窮した暮らしをしていたのだろうか。

 

 著者たちは,これまで目を向けられなかったアステカ帝国の中央から離れた農村と都市を発掘することにより,地方の人々の暮らしぶりを明らかにした。彼らの調査によると,地方の人々は,発達した交易システムを利用して,家庭で作った綿布や手工芸品をよその地方の特産品――修飾の施された土器,黒曜石の刃物,塩など――と交換し,豊かな暮らしをしていたという。地方の貴族と平民では,家の大きさや品物の量には違いがあるものの,家の中にある物品の種類には差がなかった。

 

 アステカ帝国の中心地であるメキシコ盆地の人口は,前期アステカ時代(紀元1150~1350年)の17万5000人から,後期アステカ時代(紀元1350~1519年)には100万人近くにまで増大していた。これだけの人口が支えてることができたのは,中央の統制を受けない豊かな市場経済が存在したことが大きな一因である。(編集部)

著者

Michael E. Smith

ニューヨーク州立大学オールバニー校人類学科教授。フィリピンに生まれ,ブランデイス大学を卒業し,1983年にイリノイ大学で人類学の博士号を取得した。ニューヨーク州立大学に勤める以前は,シカゴにあるロヨラ大学で教鞭を取っていた。おもに後古典期メキシコ中央部の考古学と民族史の研究をしている。この論文で述べられている発掘は,主として全米科学財団と全米人文科学基金の助成を受けている。

原題名

Life in the Provinces of the Aztec Empire(SCIENTIFIC AMERICAN September 1997)