日経サイエンス  1997年4月号

アインシュタインとシラードの冷蔵庫

G.ダネン

 1920年代中期,冷蔵庫は氷で冷やす方式から,電気で冷やすタイプに代わっていた。しかし冷却材として使われていたのは塩化メチル,アンモニア,2酸化硫黄といった有毒ガスであり,配管からのガス漏れで,一家全滅といった事故が増加しつつあった。この事故に心を痛めたアインシュタインは,20歳ほど年下の理論物理学者シラードとともに,ガス漏れの起こらない冷蔵庫の開発に着手した。シラードは「マックスウエルの悪魔」問題を解決したハンガリー人の理論物理学者であり,アンシュタインと親しく付き合っていた。

 

 ガス漏れの起こらない冷蔵庫とは,電気モーターのない冷蔵庫である。可動部分があるとどうしても隙間ができ,ガス漏れの恐れがある。そこで2人は可動部分のない3種類の冷蔵庫を考案した。1つは,現代のガス冷蔵庫と同じタイプのものである。吸収冷蔵庫と呼ばれるこタイプのものは当時既に考案されていたが,彼らはそれの改良版を考えた。もう1つは水道水の圧力で減圧部を作り,そこでメタノールを蒸発させるものである。3つ目は,電磁誘導の原理を使って,ポンプのピストン代わりの液体金属を動かす方式のものである。

 

 残念ながら,これらはいずれも消費者の手に渡らなかった。もっとも大きな理由は,折悪しく,世界大恐慌が起こったことである。製品化を行う会社に,2人の画期的なアイデアに基づく冷蔵庫を商品化するだけの体力がなかったのである。(編集部)

著者

Gene Dannen

レオ・シラードの生涯を15年にも渡って研究している。今回の原稿は,核時代の誕生におけるシラードの役割に関する彼の刊行予定の本から作成された。彼はとくに以下の機関に感謝している。カリフォルニア大学サンディエゴ校のマンデビル特別コレクション図書館,プリンストン大学希覯本文書部門,シラードの未刊書簡の使用を許してもらったエゴン・ワイス(Egon Weiss),アルバート・コロディにインタビューをするに当たってのヘンリー・スロープ(Henry Throop)とキャロル・パウルソン(Carol Paulson),およびミハリ・コロディ(Mihaly Korodi)。なお著者ダネンの e-mailは danneng@peak.org である。

原題名

The Einstein- Szilard Refrigerators(SCIENTIFIC AMERICAN January 1999)