日経サイエンス  1997年4月号

盲人はどのような絵を描くか

J.M.ケネディー

 私たちは紙の上に描かれた平面的な絵を見て,それが現実の立体物を表しているものであることをすぐに理解できる。物を視覚ではなく触覚でとらえている盲人にも,理解できるだろうか?

 

 絵は視覚のコピーのように思われるが,決してそうではないらしい。線を浮き上がらせて触覚で“見る”ことができるようにした凸線画を,盲人はちゃんと理解できる。それどころが,盲人も晴眼者とまったく同じ技法を使って絵を描く。たとえば,近くにある物は大きく,遠くにある物は小さく描く透視画法を理解できるし,使いこなせる。さらに,回転している輪を表すのに輪に沿った曲線を書いたり,ハートの中に子供のベッドを描いて子供が愛に包まれていることを表すなど,動きや隠喩的な表現も晴眼者と同じように使う。

 

 それだけではない。線のもつ多義性を晴眼者と同じように知覚する。線は細いときには2つの面の境目として認識されるが,線が太くなると,線自体が面となり,面の境界が2つあると認識される。これは視覚でも触覚でも起きる。盲人は影のように触れられないものは認識できないが,実はそれは晴眼者にとっても同じである。白と黒の2色に塗り分けられた絵を,境界線だけを輪郭線として取り出した線画にしてしまうと,もはや晴眼者にもそれが何の絵であるのかがわからなくなってしまう。

 

 これらのことから,脳では多種類の様相を処理する知覚系が,視覚と触覚の両方からの入力を受けていると推測できる。(編集部)

著者

John M.Kennedy

1942年に北アイルランドのベルファストで生まれ,ここでは数少ないユニテリアン派教会の信者の家庭で育った。クイーンズ・ベルファスト学院やベルファスト王立大学に通い,そこで彼はフェンシングと演劇にも興味を持った。コーネル大学で知覚に関する研究によりPh.D.を取得し,その後ハーバード大学の助教授になってから間もなく盲人との研究を始めた。 現在はトロント大学スカルボロフカレッジで講義を行っており,1994年には彼の大学から教育賞を受賞している。彼の知覚の授業の講義録は,インターネットのホームページで見ることができる。 URLは http://citd.scar.utoronto.ca/Psychology/PSYC54/PSYC54.htmlである。

原題名

How the Blind Draw(SCIENTIFIC AMERICAN January 1997)