日経サイエンス  1996年9月号

ロボットの手本となる節足動物の脚

S. ジル(マーシャル大学) E.-A. セイファース(フランクフルト大学)

 いくつもの脚を使って巧みに歩き回る節足動物は,ロボット工学者のあこがれのひとつである。節足動物の脚には,生体歪みセンサーとでもいうべきものがある。これが,俊敏で優雅な動きのカギとなる器官である。

 

 節足動物の歪みセンサーは,外骨格に生じたわずかな歪みを非常に感度よく検出できる。それだけではなく,脚の軸方向に平行なセンサーと垂直なセンサーがあって,加わっている力の方向性も感知できる。2つのセンサーを互いに90度に並べる方法は,構造物に化から歪みの方向を知るために,工学者がしている方法と同じである。

 

 センサーで感知した歪み情報はいったん中枢神経に入り,筋肉の伸縮を調節している。カニでの研究によると,歪みセンサーの情報はその脚だけでなく,隣の脚の筋肉の伸縮にも影響を与え,複雑な脚の協調運動にもかかわっているらしい。

 

 歪みセンサーには工学者が首を傾げるような不思議な能力もある。クモの歪みセンサー器官には場所を記憶する能力もあるらしいのだ。正常なクモは前にいた場所にちゃんとたどりつくことができるが,センサーに傷を付けたクモでは,まったく別の方向に行ってしまうのである。

 

 節足動物の歪みセンサーを研究すれば,これらの動物にたいする知識が増えるだけでなく,車輪が使えないような場所を移動する多足型ロボットの開発にも役立つと著者たちは確信している。(編集部)

 

 

再録:別冊日経サイエンス179「ロボットイノベーション」

著者

Sasha N. Zill / Ernst-August Seyfarth

2人はジルが学術交換プログラムで1982年にフランクフルト大学に行ったときに知り合った。ジルはコロラド大学デンバー校で解剖学で博士号を取得した。現在はウェストバージニア州ハンティングトンにあるマーシャル大学医学部で教鞭をとっている。歪みセンサーの研究では,おもにゴキブリとバッタを使って研究した。セイファースはミュンヘン大学で博士号を得て以来,センサー生理学とクモの行動を精力的に研究している。現在,フランクフルト大学で動物学と神経科学を教えている。

原題名

Exoskeletal Sensors for Walking(SCIENTIFIC AMERICAN July 1996)

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