日経サイエンス  1996年6月号

真核細胞はどのように生まれたか

C. ド・デューブ(ルーヴァン大学とロックフェラー大学)

 原核細胞(prokaryote)と真核細胞(eukaryote)という名は,「DNAを包む膜をもっているかどうか」という1つの特徴にこだわった名称である。前者は核膜をもたず,後者は核膜をもっている。しかし,原核細胞と真核細胞の違いはこれだけではない。真核細胞は原核細胞の約1万倍もの体積をもち,細胞の中身も比較にならないほど複雑である。

 

 真核細胞が原核細胞から発展したものであることは疑いがないが,この2つを直接結び付けるような証拠,つまり両者の中間的な性質をもつような細胞は現在ではどこにも見当たらない。一種のミッシングリンクなのである。「原核細胞から真核細胞へ」というストーリーが当然の話として受け入れられながら,この過程を矛盾なく説明できる定説が存在しないのは,このような理由による。

 

 ノーベル賞受賞者である著者ド・デューブは,この論文の中で,「原核から真核へ」という進化の道筋の合理的な説明を試みている。まず前半では,ある原核細胞が巨大な食細胞に進化し,変型自在な膜をもつようになる。ちぎれた膜にDNAが付着し,これが細胞核へと発展する。大きくなるにつれて細胞の構造を支えるための骨格もつくられる。後半では,巨大化した食細胞が他の原核細胞を取り込み,細胞内にオルガネラ(細胞内小器官)として定着する。今日,広く知られるマーグリスの「細胞内共生説」である。(編集部)

著者

Christian de Duve

ド・デューブは1974年に,クロード(Albert Claude),パラーデ(George E. Palade)とともに「細胞の構造と機能に関する諸発見に対して」ノーベル生理学医学賞を受賞した。ド・デューブは現在,生理学名誉教授となっているルーヴァン大学と,アンドリュー・W・メロン記念名誉教授として籍を置くロックフェラー大学を行き来している。またベルギーに,細胞分子病理学国際研究所を設立した。

原題名

The Birth of Complex Cells(SCIENTIFIC AMERICAN April 1996)