日経サイエンス  1996年5月号

なぜアフリカでエイズが大流行しているか

J. C. コードウエル P. コードウエル(ともにオーストラリア国立大学)

 サハラ以南のアフリカでは,都市人口の25%近くの人がHIVに感染している地域がある。しかも,ここでのおもな感染経路は異性間感染だという。これは専門家にとってはすぐには信じられないことであった。異性間の性交渉(膣性交)で感染する危険性は,実はそんなに高くない。実際に,先進国でHIVのおもな感染経路となっているのは,男性同性愛者間の性交渉(肛門性交),汚染した注射器を使った薬物の回し打ち,汚染した血液や血液製剤の使用(いわゆる薬害エイズ)である。

 

 いったいなぜ,この地域では,異性間性交渉でこんなにもHIVが広まってしまったのだろうか。多くの研究者は,アフリカの衛生状態のせいにして,この問題をあまり深く追求しようとはしなかったが,この著者たちは違った。

 

 まず,2人はこの地域の性行動がごく普通のものであることを明らかにした。次に,結婚形態(一夫一妻か一夫多妻か)や,売春婦に対する考え方など,考えられるさまざまな要因を検討した。さらに,かつて別の2グループが指摘しながら無視され続けてきた,割礼とHIV感染の関係を再検討した。その結果,男性の割礼の習慣の有無が,アフリカでの感染率の高低を決めていることを明らかにした。割礼をしない地域や部族は感染率が高いのである。

 

 割礼とHIV感染率の高さをめぐっては,医学的ではない意見がめぐらされた経緯がある。しかし,当のエイズ多発地域の住民たちは,割礼とHIV感染の関係を肌で感じて,それまで習慣のなかった部族も割礼をするようになってきている。(編集部)

著者

John C. Caldwell / Pat Caldwell

2人は,キャンベラにあるオーストラリア国立大学の国立疫学・集団保健学研究センター内の健康問題の変遷に関するセンターで研究している。人口学者であるジョンと人類学者であるパットはともに,サハラ以南のアフリカにおける性問題ネットワークおよび性行為感染症とHIVに関する共同研究プロジェクトのスウェーデン機関の主任研究者である。1970年から1988年の間,ジョンはオーストラリア国立大学の人口学部の部長であった。彼はまた,ハーバード大学の人口科学と国際保健学部の準教授でもある。    

原題名

The African AIDS Epidemic(SCIENTIFIC AMERICAN March 1996)