日経サイエンス  1996年1月号

脳の免疫系を担うミクログリア

W.J.ストライト C.A.キンケイド= コルトン

 血液中にある白血球は,体を病気から守る免疫系の代表的な細胞 である。しかし,脳には白血球が入らないようになっている。脳に侵入できるのは,病気やけがなどで血管が損傷したときだけで ある。白血球の代わりに脳内で免疫防御を担っているのが,グリア細胞の一種,ミクログリアである。
 ミクログリアは通常は突起を多数伸ばして周囲の細胞に接触し, 異常がないかを監視している。ニューロンに異常が起こると,形 を変え,ニューロンの修復を手助けするような成長因子を放出する。また,腫瘍細胞や細菌を殺すような分子も出す。さらには, 死んでしまったニューロンや他の脳細胞を貪食して,脳内を清掃 する役目もある。
 しかし,免疫細胞としてのミクログリアの働きは諸刃の剣でも ある。腫瘍細胞や細菌を殺すためのサイトカインやタンパク質分 解酵素,活性酸素類は時として,正常なニューロンを殺してしまうこともある。健康な人では,ミクログリアが必要以上に働きす ぎないように,制御する機構が働いているらしい。しかし,アル ツハイマー病やダウン症の患者では,この制御が効かずに,ミクログリアが暴走し,その結果ニューロンの死と痴呆という状況を 招いているようだ。